時間外手数料108円
しあわせなことに、お客様に恵まれています。
怒鳴られたことは一度もないです。強いていうなら、お菓子をあげるという技を使い、うまく、いなされているぐらいだと思います。
でも、お駄賃もらったと、よろこんで支店に帰れるのならいいけど、そうもいきません。
「ほら、おばちゃんにありがとう言いなさい!」なんて上司は言ってくれず、成果だけを求められます。
そんなぼくも、怒られたわけじゃないけど、お客様に「説教」をされたことは2度ほどあります。
ひとつめは、ちょうど去年の冬の話でした。
季節の話をしていた時のこと。「寒くなりましたね」のやりとりの中で、話題はインフルエンザのことに移ります。
奥さんが、予防接種を受けたか聞いてきました。ぼくは、時間が取れずにまだ行けてないと答えます。
あなたのお客様は年配の人が多いし
インフルエンザにかかることが
命とりになる人もいるのよ
そこまでお客様のこと考えないと
こんな感じの話だったと思います。
トンカチで頭をスコーンと殴られた感じがしました。なんでそんなこと考えられてなかったんだろう。
それまでのぼくは、インフルエンザにかかったら、一人暮らしだし、しんどいのは自分だけだと思っていました。でも、ちがう。仕事として、お客様のために予防接種を受けないといけない。その辺の意識が去年のぼくには欠けていたのです。
ふたつめは、昨日のことです。
前提として、ぼくの仕事の競合相手は、周りにある金融機関です。特に、信用金庫は金利がよく、多く利息がもらえるところに定期預金を動かす人もたくさんいます。
お金を1年置いておくだけで、既存の銀行より増えるのなら、そりゃ移しますよね。
極端な話をすると、定期預金の金利0.05%の違いで、お客様が離れていくこともあります。「〇〇金庫のほうが金利がいいから」と言われたら、正直、返す言葉がありません。
では、どうしてぼくにもお客様がいるのか。そこには、「心意気」という要素が大半をしめています。毎日、足しげく通い、雑談をして、信頼してもらった結果が、0.05%の利息、お金という実益を跳ね返すのです。
もう1つが運用です。定期預金ではなく、投資信託や保険を推進して、他行よりもぼくと取引してくれる理由をつくります。電卓をたたいて、数字を掲示するのです。
それは、キャッシュカードの手数料の話をしていた時のことでした。
「ぼく、いっつもお金おろすのを忘れて時間外手数料払ってるんです」
自虐的に笑っていたぼくに、お客様が言いました。
その話はお客さんにはしないほうがいいよ
あなたは0.01%の単位で
お客様に利息の話をしているわけでしょ
「うちのほうが何百円儲けられます」とかね
そういう世界で話をする人が
自分の108円の手数料を気にしてないのは
どうかと思うなぁ
あなたの話を軽くさせてる気がするよ
これまたスコーンと失神するかと思いました。
時間外でお金をおろしてしまうのは、仕方ないとして、その発言が自分の信頼を下げているかどうかについて、まったく考えられていませんでした。
なにも、ケチであれってわけではなく。どう思われるかについて、もっと考えないといけなってことで指摘を受けたのです。
とはいえ、あなたらしいけど。
お客様は、笑いながら付け足してくれました。
予防接種を忘れてたのも、手数料の話も、「ぼくらしい」に甘えてしまったら、ただの笑い話で終わる可能性もあります。
でも、もしそれが通用しなかったら、信頼は静かに少しずつ沈んでいく。
どこで、ぼくらしくあるか。どこは、プロとして話をするのか。その辺りのさじ加減について、2つの「説教」は教えてくれます。
例えば、話をしてる間にお腹がグルグルと鳴ってしまうのは、いまの仕事では「ぼくらしい」に甘えられることです。仕方ないなぁと、みかんを出してもらって、親近感をもって話をしてくれます。
でも、鳴ったらいけないところもあったりするでしょう。カロリーメイトでもいいから、頬張らないといけない時もきっとある。
このあたりを、もっと分かったうえで、話をしていて楽しい人になっておきたい。
それはたぶん、この先、どんな仕事をぼくが選んだとしても、変わらないスタンスであるべきなのだ。
平均台の上を、フラフラしながらも、落ちないように慎重に。信頼というものを、抱えながら、口から出る言葉や行動を選んでいかないとダメだと、昨日考えていました。
となりの後輩が悩んでいます。
理不尽に怒鳴る社長がいるみたいで、いつも怒られるらしいです。
あぁ、ぼくは恵まれてると思いながら、もらったお菓子を頬張るのです。