得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

おしょうゆ

 

こいくち醤油と、ともだちだ。

 

見てくれすこし怖いけど、

ほんとは、気遣いさん。

 

その場の雰囲気をじんわりとまとめる。

わがまま言ったら、聞いてくれる。

ぼくにあわせて、いてくれる。

 

 

 

うすくち醤油と、ともだちだ。

 

あっさりしてて、心地いい。

一緒にいるのに、何も考えずボーっとしてるの。

 

だけど、ほんとはすっごく熱い。

夜ふかく、ふかくなったら、

彼の味わいが、熱量が染み込んでくる。

 

 

 

だし醤油なんか、しんゆうだ。

 

つつまれてたい、浸されたい。

 

彼がいたら、他になにもいらないの。

どんな奴が来たって、

いつもすることはひとつだけ。かけるだけ。

 

どこにいたって、隠れてたって、

だしが、いるってすぐ分かる。

 

連絡したらさ、

気づけば会ってるしんゆうなんだ。

どこに行っても、

いつもたのしいしんゆうなんだ。

 

 

塩分のとりすぎ注意して、

たまには、孤独にがんばるよ。

 

ご褒美なんていらないさ、

そこにしょうゆがいてくれたら。

 

 

砂糖も呼んでさ、あぁ、佐藤。

温泉行こう、銭湯も。

浸かってたいんだ、ぼくは大根。

 

 

 

エスカレーター横のおじさん

 

おじさんをさがしていた。

この数日、どこかへいったおじさんがいた。

 

毎朝、おなじ電車に乗る。

いつもの場所で日経新聞をひろげるおばさんや、

ちぢこまりながら文芸春秋を読むお父さん。

いつものメンバーがいる。

どこの駅で降りるのか分かっているから、

壁沿いを確保している文芸春秋のお父さんの前にぼくは立つ。

お父さんが降りる瞬間に生まれるスペースにすべりこむ。

 

言うならば、

テトリスの長い棒がピッタリはまるような感覚なんです。

 

待ってましたと言わんばかりに体が動いた瞬間、

あぁ今日もなんとか一日がはじまったなぁと実感する。

 

 

ちなみに、探していたのは、文芸春秋のお父さんではありません。

エスカレーター横のおじさんです。

 

職場の最寄駅について、

くだりのエスカレーターへ向かう。

角を右にまがったとろに、そのおじさんはいる。

 

毎日、そこでおじさんは、

バンを置いて、ジャケットを脱いでエスカレーターに乗る。

 

それだけ。

それだけなんですけど、

毎日絶対、そのおじさんはそこにいる。

 

たぶん、おなじ電車で、

ぼくよりもエスカレーターに近い車両に乗っているから、

いつもそこにいるんだと思う。

 

あさねぼうした日は、おじさんはいない。

ぼくが一本遅い電車に乗ったから。

すこしだけ期待して、角を曲がるけど当然いない。

 

サラリーマンのプロは、あさねぼうなんてしないんだろう。

 

で、次の日、ちゃんといつもの電車に乗れると、

おじさんはジャケットを脱いでいる。

 

「あ、日常だ」

と思いながら、エスカレーターを下る。

 

なのに、そのおじさんがいない。

エスカレーター横のおじさんがいなくなった。

 

毎日、文芸春秋のお父さんからゆずってもらった壁際にはりついて、

いつも通りに駅の角を曲がっているのに。

どうしてだろう。日常がちょっとだけ変わってしまった。

 

なにがあったんだろうか。

 

・転勤

・転職

・退職

・引っ越し

 

生活がかわったんだろうなぁ。

おじさんにとっても、すごく大きな変化だっただろう。

 

5月になって、辞令が出ることだってあるだろうし、

もしかしたら退職するぐらいの年齢だったのかもしれん。

すこしふくよかな人だったから、体調を崩したのかなぁ。

 

寝坊せず、まったくおなじルートで通勤しているが、

おじさんを見つけられないもどかしさ。

 

一度も話をしたこともなく、

ジャケットを脱いでいる姿しか見たことがない。

ぼくの人生を大きく変えてくれるようなことは、

ほんとに、みじんもない人なんだろうけど、

どこかぽっかり穴があいた寂しさ。

 

エスカレーター横のおじさんがいないことが、日常になったんだねぇ。

 

 

金曜日

 

 

いつもの電車に乗った。

すこしだけ、いつもより出口に近くの車両へ。

 

あぁ、しんどいなぁとため息。

 

角を曲がって、エスカレーターを降りるために列へならぶ。

 

もう一度、ため息が出そうな間があって、

ボーっと何も考えずに歩いていたら、

 

おじさんを見つけた。

あれは、まぎれもなく、エスカレーター横のおじさんだ。

 

どうしてだ、どうしてそこにいるんだ。

あなたは、いまの時間、あの場所でジャケットを脱いでいるはずなのに。

 

 

 

 

そうか、

 

なんだ、

 

そんなことか、

 

もう、クールビズの季節なんだ。

 

ジャケットを着なくていいから、

脱ぐ必要がないんやね。



 

だれかの日常は、

ほかのだれかが生きる世界でもあるんだな。

 


ホッとしながら、

新しい日常をすすむ、すすむ。

 

 

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あ、

バン屋のおじさんは、

荷物が多いね。

回転日記

 

こんばんわ。

今宵も、回っていますか。

 

最近、思うことがありまして、それは何かっていうとですね。

人は“回転”が好きだなぁってことなんです。

 

なんで、こんなことを思ったのかって、

回転寿司が、ほんと大好きなんです。

 

回っているんです。お寿司が。

くるくると、レーンに乗って。

 

もちろん、友達と行って食べているから楽しいのかもしれないのですけど。

それだけじゃない気がするんです。

次から次へと、お寿司のパレード。

 

はっと、顔を上げると、光りかがやく大名行列

ワクワクしてきてたまらない。

 

ほかには、どんな回転があるだろ。

そうだ。お好み焼きだ。

あの、くるりと回転する瞬間が楽しい。

 

メリーゴーランドとかも、やっぱり乗ってみたら楽しい。

どの馬に乗るか必死に選んで、

あとはひたすらグルグル回る。

それだけなんだけど、ボーっと馬にゆられるのがいい。

 

回転木馬というミュージカルがあるけど、

観る前から何か面白いことが起きそうな予感がしてくる。

回転焼きというおやつがあるけど、

食べる前から何か面白いことが起きるに決まっている。

 

 

縦にくるりと回るというのは、

どことなくトリッキーな動きだ。

横にぐるぐる回るのは、

電車ごっこのような永遠に眺めることのできるパレードだ。

 

 

 

 

『世の中を、回転させる』

 

 

って肩書を、背負うのはどうだろう。

なんとなく、中間管理職のような気がして面白くない。

 

 

『世の中を、縦回転させる』

 

 

ちょっとだけ、何かをしでかしそうな気がしないですか。

しないかなぁ。

 

 

『世の中を、横回転させる』

  

どうしよう、今日の終わりかたが見つからない。

 

 

 

そういえば、ぼくは回転寿司が大好きで。

あの光かがやくパレードを眺めるのが・・・・

 

 

話も、一回転させてみようと思いましたが、

意味もないのでやめておきます。

 

 

 

なにかが起こりそうな予感がするでしょ?

 

なにもないんですけどね。



まわる、まわるよ、時代はまわる。

ゴールデンウィークが、金メッキだとしても。

 

朝起きるのが、本当につらい。

いまも、変わらない悩みです。

就職して3年目のゴールデンウィークを迎えました。

 

朝早くに起きなくていい日は、

はやくに目が覚める。

これがまた、納得いかない。

 

就職して1ヶ月、ぼくは何をしていたんだろうか。

メモをみかえした。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ビラ配りをしていたら、

チラシ業者様いつもありがとうございます。

チラシを入れるならポストの使用料金10円を投函してください。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

そうだ、いまの支店に配属されてすぐ、

ぼくは毎日ひたすらポスティングをしていたんだ。

その時に見つけた、ある団地のポストに書かれていた言葉をメモしたんだった。

 

銀行員として、ピンポンを押したり、チラシを投函したり、

こんなことを毎日している。

入行してから今も変わらない。

 

いまもずっと、

何をしてるんだろうと思いながら、

虚しくなったりしている。

 

猫が支店の裏口にうんこをしたときに片付けたし、

蜂がブンブン飛び回ってるときに退治したのも1年目のぼくだ。

それで給料をもらって、好きなものを買って、好きな音楽を聴いている。

 

綺麗ごとを言いたくなる。

 

希望がなくなると、前がみえなくなるからだ。

 

だから、本当だったら、

いまのぼくがお客様と接したことのなかで、

お客様の人生に手助けできたことを書いて、

この仕事も案外悪くないというセリフで〆るのがいいのだろう。

 

 

でも、ちゃうんだよ。

そうじゃないんだ。

 

 

 

好きなことでお金を稼いで、

好きな本を読んで、

好きな音楽を聴いていたいんだ。

 

好きなことからはじめたいんだ。

 

 

心底嫌だなぁって思いながら稼いだお金で、

好きなものを買うことにすごく違和感がある。

 

 

もっと、向き合いたい。

好きなものと、向き合いたい。

 

買われる側からしたら、知ったこっちゃないだろう。

あんたがどんな経緯でお金を稼いで消費をしようが関係ないと思ってるだろう。

 

 

でも、なんとなく、

後ろめたさを感じながら、

人と会ってもご飯を食べているし、

酎ハイを飲んでいるし、

温泉に浸かっている。

 

贅沢な悩みなのかもしれない。

 

 

盗んだお金以外で、

後ろめたさを感じず好きなものを買えている人を、

ぼくはすごく尊敬する。

そして、うらやましい。

 

仕事としっかり向き合えている人なんだと思う。

 

ぼくはどこか、ななめを向いて、

興味ないけどって態度を仕事に対してしている。

 

 

一生懸命稼いだお金で飲むビールがうまい

 

本当にあると思う。

 

一生懸命稼いだお金で聴けた音楽が最高だ

 

これも絶対にある。

 

 

 

初任給、みなさんは何を買いましたか。

どんな、好きなものにお金を使ったんだろう。

好きな人に、お金を使った人もいるだろうなぁ

 

どうでしょう。

 

ちょっと後ろめたさを感じた人もいたりしないのかな。

本音を書くと、やっぱりいると思うんです。

 

 

 

周りの同期が、両親にプレゼントを買っているときに、

自分は何となく買いたくないと思っている人がいたりしないのかな。

 

ぼくは、そうだった。

 

両親に感謝をしているのだけど、

こんな気持ちで稼いだお金で何を渡したらいいか分からなかった。

 

だけど、何もないのは失礼だと思って、

すごく適当に選んだお箸のセットを渡した。

 

渡すのも、実家の机にポンっと置いて、それで終わり。

 

 

 

 

いつか、初任給で家族をごはんに連れて行ってあげたい。

堂々と、顔をみて喋りたい。

 

 

ぼくの初任給は、いったい、いつになるのだろうか。

 

そんなことを考えながら、転職への準備をしているのだが、

いやはや、好きなことで生きていくのは難しい。

自分が大人になるほうがずっと簡単なんだろう。

 

 

もし、どこかに、

ぼくと同じような人がいたら、

いっしょに初任給を探してみたりしませんか。

 

 

ちなみに、

メモをしていたポストには、

10円もチラシも投函することはしませんでした。

 

どうだろう。

 

定期預金してくれるなら入れてたかなぁ。

 

いや、してへんなぁ。

 

ゴールデンウィークが終わりに向かっている。

黄金のメッキがはがれてきている絶望感に、

くらい話をするのは逆にありなんちゃうかと思ったのです。

 

 

ちなみに、もう1つぼくがその日にメモしていたことを書いておきます。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

キャッチフレーズが、

「まっすぐ!」

と書かれた市会議員のメガネのフレームが、

絶妙なほど楕円形だった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

本当は、どうでもいいことで、人をしあわせにしたいんですが、

 

まだまだ着眼点が、あまいみたいです。

 

 

 

ゴールデンウィーク

 

 

時間は止まらない。

 

 

どうせ剥がれる金メッキ。

残りの3日間、

しっかり剥がしまくって

いっぱい楽しんでいきましょうね。

 

そうしなきゃ、損だ。損だね。

 

 

 

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先日撮った写真。

タイトルは

「かかと落とし」

です。

 

 よい、一日を。

 

 

 

これからも、ずっと甘いよ。

 

太鼓の達人をみていた。

家族でわいわい楽しんでいる、家族の達人を。

 

お父さんと、娘さんが2人で最初にゲームをしていて、

ノルマをクリアしたから二曲目はメンバーがかわった。

お母さんと、娘さんがトライする。

 

いまどきの流行のミュージックにあわせて、

ドンとカッが鳴り響く。

 

お父さんは、手持無沙汰。

うしろでボーっと家族を見ている。

 

ぼくも、特にすることがなくて、

ボーっとその家族を見ている。

 

こうやって書くと、

なんだか本当にヒマな不審者のようだが、

まぁそこまで間違っていない。

 

お父さんの手には、謎のハンマー。

これは、ワニワニパニックという、

もぐら叩きみたいなゲームのやつだけど。

 

どうして、男はハンマーとか、棒とかを握りたくなるんだろう。

 

お母さんと娘が、

星野源の恋をノルマ達成するまで、

お父さんはひたすらボーっとハンマーをぶらぶらと振っていた。

 

その姿を、たぶん、

ぼくだけがボーっと観ていた。

 

その後、

もうワンコインが投入されて、

お父さんとお母さんが、

カップルに戻りかんたんモードをフルコンボしていた。

 

娘はそれを、ボーっとみていた。

 

ぼくは、その頃にはもう家族をみるのをやめて、

となりにあったアンパンマンをみていた。

 

バイキンマンを叩くゲームなのでハンマーがある。

 

握ってみる。

うん、なんとなぁく手に馴染む。

さっきのお父さんの気持ちがよく分かる。

 

上からのぞいてみる。

バイキンマンはほとんど頭がはみ出ている。

 

 

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お、ひとりだけおサボり上手がいるぞ。

休憩時間に駄菓子なんかたべちゃっている。

 

スコアボードがある。

叩いたバイキンの数で、コメントが変わるんだね。

 

 

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まだまだあまいな!

 

だってさ、

 

これからも、ずっと甘いよ。

だって、アンパンだもん。

 

ひとりでおかしくなってしまった。


阪神が負けても、酒がのめるぞ。

 

酒がのめる 酒がのめる 酒がのめるぞ~

阪神が勝ったら 酒がのめるぞ~

 

という歌があったけど、

ぼくの父もそんなところがあった。

阪神が負けると本当に機嫌がわるい日があった。

 

年間140試合以上もある競技で、

1回負けたぐらいで不機嫌になられたら、

子どもからしたらたまらない。

 

逆に、勝った日にぼくたちに何かいいことが起こるかと言えば、そうでもない。

酒がのめる のめるぞ 酒がのめるぞ

なのであーる。

 

いま考えると、ふしぎだ。

大人が、好きな球団が試合に負けたぐらいでそんなに不機嫌になるものだろうか。

どうして、父はあんなに阪神の勝敗に左右されていたんだろう。

 

ぼくも、いまは父とおなじように毎日仕事へ行き、家へ帰る生活。

大学生の時とはちがい、平日はほとんど同じようなことの繰り返し。

 

毎朝眠たいのに会社にいって、ありえないノルマを課され、

お客さんには無理を言われ、上司には気をつかう。

ストレスはどこかに蓄積されて、睡眠したら、またおなじことのくりかえし。

 

こんなものと、親は毎日戦っていたのか 親ってすげぇ

と、社会人になっていちばんはじめに思いました。

 

 

火 水 木 金 土 日

 

これは、プロ野球の試合が行われる曜日。

 

月曜日をのぞく、ほとんど毎日です。たまに月曜もあるけど。

春から秋ぐらいまではつづきます。

 

週休2日制の会社に勤務していたとしたら、

勤務するほかの5日は、

かならず何かが起こります。

 

仕事で失敗したり、理不尽な目にあったり。

かと思えば、

うまく物事がすすんだり、ラッキーが舞いこんできたり。

 

その一日の最後のほとんどに、

野球の試合があったのです。

 

 

モヤモヤしながら仕事から帰ってきて、

テレビをつけたら阪神が負けている。

 

なんやねん…どいつもこいつも…

一日抱えていた気持ちを

家族には出さないように、出さないようにしていた父の緊張がきれる。

 

だけど、

仕事がうまくいかないから機嫌がわるい が、

阪神が負けたから機嫌がわるい に、

形をかえて出てきていた。

 

だから、

ぼくはなんでお父さんは阪神が負けたらあんなに機嫌がわるいんだろうって、

今日まで思い続けられていた。

 

阪神が試合に勝ったぐらいで、喜びすぎな日もあった。

それはそれで、何か良いことがほかにあったんだろうと思う。

 

 

それはそれで、良かった気がする。

父親が、父親らしくあるために、阪神の試合があったのだ。

 

べつに、机をひっくり返したり、

ベロベロに酔ってお母さんに手をあげたりすることもなく、

誰とも話さず眠りにつくだけだった。

 

そして、また次の日も、

なにくわぬ顔で仕事へ出ていく。

今日がどんな日になるか、分からないまま。

 

いま気づいてよかった。

心からそう思う。

 

 

 

なんで気づけたかというと、

ぼくは、ぼくで、

大好きな広島カープが負けた日は、

ちょっと悔しかったりするからだ。

 

たった140試合ぐらいのうちの、1試合なのに。

 

でもその1日は、

ぼくにとって、誰かにとって、

とてもしんどい1日だったり、

すごくしあわせな1日だったりする。

 

その感情を、うまく解消できない立場の人が、

世の中にはいっぱいいる。

 

 

大丈夫、野球が待っている。

今日を悔しがったり、喜んだりできる理由づくりに待っている。

 

 

実家に帰ったとき、

阪神タイガース 対 広島カープの試合を父が観ているときがあった。

 

その日は、カープが圧勝したんだけど、

父は平気なかおをして、

酒がのめるぞ~をしていた。

 

そうか。

 

あの頃から時間はたっぷり過ぎて、

今度は、ぼくが悔しがる番なんだなと思って、

 

すこしだけ、さびしかったなぁ。


バイキングは、夢である。

 

食べ放題が好きだ。

 

小さいころ、はじめてバイキングへ連れて行ってもらった日、

まさにそこは夢のような場所だった。

ここぞとばかりに、から揚げやお肉を皿に盛る。

好きなものを、好きなだけ。

気持ちばかりのサラダで、お母さんの様子を伺ったりした。

 

この大きなお皿に、何を乗せても怒られない。

すこしだけ、大人になった気分で、

 

おっこれはええな

ここにちょっとだけ色味をつけておくか

 

みたいな感じで、すこしだけアーティストちっくな雰囲気まで湧き出てくる。

 

 

 

なぜ、こんなことを思ったかって、

昨日ぼくは食べ放題へ行ったんです。

 

しゃぶしゃぶとお寿司が食べ放題というお店。

 

・・・もう一度。

 

しゃぶしゃぶとお寿司が食べ放題。

夢です、夢。

大人のぼくにも、まさに夢のようなお店。

 

お肉とお寿司は、店員さんにオーダーする。

牛を何枚、豚を何枚、お寿司は何と何とを2貫ずつといった感じで。

数分もしないうちに、テーブルの上には夢が広がる。

 

 

野菜はといえば、サラダバーのように、

たくさん盛られたコーナーから好きなものを収穫する。

 

白菜、しいたけ、えのき、ねぎ、豆腐、じゃがいもスライス、だいこん、中華めん。

そのほかにも鍋に入るお肉以外のものが並んでいます。

 

おっきなお皿を持って、たくさんの人たちが、

鍋にいれる具材をえらんでいくのですねぇ。

 

 

土曜日の夜は、たくさんの家族連れ。

ぼくも、ウキウキでおっきなお皿を持って列に加わります。

 

 

あ、ぼくバイキングで必ずすることがあって、

それが、頭のなかで実況をするってことなんです。

 

 

ちょっと大人の顔をした少年の、

バイキングっぷりを観察したり。

 

トングを持って子どものような目をしたおじさんの、

バイキングっぷりを観察したりするんです。

 

そして、その動きを頭のなかで実況する。

 

 

 

さぁ、ケンちゃん(仮)がいま、ポケモンのトレーナーに身をつつみ、

堂々と入場してまいりました。

左手には自分の顔よりも大きなお皿。

右手にはカチカチと鳴らす黒いトングです。

なにをとるのか、ファーストタッチはなにか。

 

う~ん、ここは最初は白菜に手をつけるのが一般的ですが、

まだまだ若いルーキーです。

その風貌にまどわされて、じゃがいもスライスに手を出すのではないでしょうか。

 

どうする。どうするんだ。

 

なんと、まさかの中華めんだぁ。

中華めんを何回も何回もつかんで盛っている~。

そして、横においてあるうどんも、乗せたぁ~。

 

出来上がったのは、中華めんとうどんの山。

 

しかし、ケンちゃん(仮)は動かない。

まだいく、まだいくのです。

絶妙なバランスで成り立っている山に、さらに麺をのせていく。

 

 

ぼく、あなどっていました。

彼のかりそめの姿にまどわされていました。

ケンちゃんは、うどんや中華めんをとった。

つまり、食べ放題の〆へとやってきている。

 

ぼくなんかより、ずっとずっとベテラン選手だったのです。

だからこそ、あんなに絶妙なバランスのパフォーマンスを披露できるのです。

 

 

何食わぬ顔、麺食う顔をして、

彼はどこかへ消えて行きました。

 

 

圧倒的なバイキングを目の当たりにして、

 

 

ぼくはと言えば、

白菜やしいたけを皿にのせ、

じゃがいもスライスをすこしだけ。

色味を気にして、にんじんを気持ちばかり。

 

 

だめだ、完全に負けている。

好きなものを堂々とやってきてかっさらっていく、

あの少年の姿が忘れられない。

 

 

にんじんをそれだけ乗せても、ほとんど意味がないのに、

色味なんかを気にして置きにいってしまっている。

どうせ席にもどったら、そのまま鍋の中に消えていくのに。

もっと、もっと、自分のためのバイキングをしなけりゃいけない。

そうだ、ここはぼくの夢だ。そしてみんなの夢だ。

誰かに見られているから、食べる物を選ぶなんて間違っている。

 

 

ぼくの夢は、ぼくが作るんだ。

 

 

待ってろ野菜たち。

次のタームで来るときには、

驚きのパフォーマンス見せてやる。

 

Mr.バイキングであるケンちゃん(仮)に負けてたまるか。

 

 

 

並々ならぬ決意を抱き、席へ戻ろうとすると、

 

 

 

自分の顔ぐらいの大きなお皿に、

お花のようにお野菜を綺麗に盛り付けている、

シゲオさん(仮)(50代)がにんじんを刺し色に使っていました。

 

 

白玉の先に。

 

帰り道の電車で聞こえてきた言葉。

 

「調理実習を乗り越えないとあかんわ」

 

なんてことだ。

調理実習は、乗り越えないといけない壁になってしまったのか。

 

ぼくは、好きだった、調理実習。

エプロンつけて、バンダナを巻いて、

忘れた人は給食当番の服を着て。

 

先生の言われたとおりに作るのに、

美味しくできる班と、できない班があったりして。

 

みんながおなじように進んでいるのに、

片づけが早い班と、昼休みにまで突入する班がある。

 

気になる女の子と、おなじ班になってたりすると、

「料理って素晴らしい」って思い続ける時間になる。

 

隠し味とか言ってちがう料理につかう調味料を、

調子に乗って使って、まわりに白い目でみられるやつがいる。

 

 

調理実習が乗り越えないといけない壁なのか。

乗り越えた先に何があるんだろうか。

あんなに楽しい時間なのに。

 

みんなでダラダラつくる、

ミートソースのスパゲティに勝てるものはあるんだろうか。

 

きっと、彼らにはもっと楽しい時間がいっぱいあるんだろう。

 

カラオケ行ったり、USJに遊びにいったり、

LINEでやりとりしたり。

 

それでもやっぱり、

白玉フルーツポンチを作るのはめっちゃ楽しいんだけどなぁ。

 

白玉の先に、いったい何が待っているんだろう。

 

そんなことを、ボーっと考えていると、

さいごにまた聞こえてきた。

 

 

 

「ふふふ、あの白玉地獄を乗り越えないとあかんよなぁ」

 

「うん、あれは地獄や」

 

 

なんやねん、

ボルダリングみたいに、

楽しそうに壁を登っとるやないのよ。

 

あ。

 

まっすぐな壁に、

石をたくさん貼り付けたら、

ボルダリングになるな。

 

ってことは、

いろんな壁が自分の前に立ちはだかったら、

たくさんのポイントを作っておいて、

どこに進むか、足を置くか、手を伸ばすかを考えながら登ると、

とても楽しめるんじゃないだろうか。

  

それにしても、

来月のノルマという壁は高いし、

なかなか石が貼りつかないのである。



午後9時の妖精。

 

不思議な位置関係だ。

 

 

なにかが起こりそうな気配を感じとって、

数人がおなじように立っている。待っている。

 

 

それは、ネットの情報で、

ゲリラLIVEの場所を嗅ぎ付けたファンが、

「そろそろ来るんじゃないか…」と待っている様子にすこし似ている。

 

話すこともしないが、

それぞれがなぜそこにいるかは分かっている。

 

ぼくも、待っている。

 

閉店を15分前にひかえた食品売り場は、

そわそわが止まらない。

ちらちらと周囲を見渡しつづける。

 

 

店員さんが、たった一枚の黄色のシールを貼るだけで、

その一瞬で商品の価格は半減する。

 

 

まるで、魔法だ。

『半額』と書かれたシールを貼ったとたんに、

たくさんの手が伸びて、一瞬でお寿司は売り切れる。

 

さっきまで、ぜんぜん知らないフリをしていた人が、

とおい野菜売り場から、カートをとばしてやってくる。

 

 

負けてたまるか。

いそいで手をのばす。

 

 

なんのためらいもない。

1000円のものが、500円で売られていたら、

すこしぐらい怪しんでもおかしくないけど、

今回の場合は、話はべつだ。

 

たった一枚シールを貼っただけ。

1秒で、お寿司が半額になった。

理由は、閉店が近いから。それだけ。

知っているんだ、それが1000円だった時の輝きを。

 

 

妖精のように、

店員さんは売り場をめぐり、

たくさんの商品を半額にしていく。

 

主婦の目は、血走る。

ラディッシュと紫キャベツを買っているような奥様でさえ、

おどろくような手の動きだ。

 

 

そして、さっきまでガラ空きだったレジに、

突如として長蛇の列ができあがる。

 

みんな一様にして、妖精の恩恵をうけていて、

レジ打ちのお姉さんは当然のように50%OFFのボタンを押す。

 

勝ち誇った顔をして、

おおぜいの人間が店を出ていく。

 

大きなレジ袋をもって、

割り箸を人数分もらって。

 

 

ぼくも、割り箸を2本もらって店を出る。

ひとりで食べるんだけど、

半額だからって欲張ってしまった。

2パックも買ったお寿司をひとりで食べると思われるのが恥ずかしかった。

 

 

そんなところで恥ずかしさを感じるよりも、

そわそわしながら妖精の出現を待っていたことのほうが、

よっぽど恥ずかしいことに気付く。

 

 

次は、しっかり割り箸はひとつだけもらおう。

せめて、いさぎよくあろう。

 

てなことを考えながら、蛍の光を背中に感じて帰る。

 

 

 

うん。

 

 

午後9時、お寿司売り場には妖精がいる。

 

 

どうせ切れちゃう充電なので。

 

電動自転車の電池が、あっというまに切れる。

 

支店を出て、ひとつめの信号をわたるときには、残量はメモリが1。

もうすこし先の、みじかい橋を渡るころには、電池は0。

ECOモードを押して、スタートしても何も変わりがない。

気づいたころには、自転車を押しながら坂道を登っているのです。

 

だから、最近、充電するのをやめることにしました。

 

きっと、最初の数メートルが軽いから、

充電が切れた時の反動がでっかいのだなぁ。

 

 

あっ、もしかしたら、

日々の生活も充電をするから、

その反動がしんどいんじゃなかろうか。

 

 だったら、休むことを変えよう。

 

座椅子という充電器に、じっと座って一日を過ごすことなんてやめよう。

たのしいことをしよう。

 

いま、一日この部屋にいることはとっても楽だ。

体力もまったく削れないし、食べ物を買い込めば、

もう他に何もいらない。

 

 

疲れているから、充電しなきゃ

そう思って、部屋にこもってるんだけど、

次の日はどうせすごくしんどい。

 

月曜日の朝には充電は切れる。

 

充電するのをやめよう。

しんどい一週間だったなら、

つかれる休日をすごそう。

 

ヘロヘロになって帰ってきて、

充電器に戻って来よう。

 

どうせすぐに、充電なんて切れるさ。

 

疲れること、充電が切れることを理由に、

たのしいことから逃げないように。

ただただ、たのしいことをしよう。

 

充実感のある休みは、充電切れの休みでもあるのかもしれない。

月曜日の朝に後悔しても、

数日後には、その休みの思い出があなたを元気にしてくれるかもしれません。

 

なにかの足しに、できればそれで。