得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

高校二年の夏休みは、ひとより1週間長かった。

 

 

クラスメイトが、まだ抜けきらない休み気分に打ち勝って授業に出ているとき、ぼくは家の近くにある漫画喫茶ドリームにいた。個人で経営しているその漫画喫茶は、小さなビルの2階にあって。いつもやる気の無さそうなおばちゃんが、ひとりで店番をしていた。平日のお昼に行っても、補導されるでもなく、制服で行っても何も言わずブース席へ案内してくれた。帰るときには、次回の割引券もあった。で、次の日にすぐ、その割引券を使った。そして、また割引券をもらった。「学校へ行かないとなぁ」って思いながらも、気づけばドリームで『将太の寿司』を読んでいた。

 

 

とにかく、学校へ行くのが嫌だった。なつやすみが終わっても、ずっと、なつやすみでいたかった。だから、とりあえず、人よりも長い休みにすることに決めた。学校へ行くふりをして、自転車は駅前のドリームへ向かう。担任の先生から電話がかかってきそうな夕方に、家へ帰ってきて、築き上げたしんどそうな声で対応する。明日はちゃんと行こうと思って眠っても、目が覚めたら、もう今日は休もうと家を出る。

 

 

将太の寿司』の続きが読みたい。究極の寿司職人 大年寺三郎太と、主人公 将太の料理対決がみたい。割引券をつかって、ボーッとリクライニングに座って寿司漫画を読んだ、延長戦のなつやすみだった。ほんと面白いんですよ、この漫画。もう学校なんて行かなくても、寿司がどれだけ洗練された料理なのか学びたいと思った。どんな困難にも、努力と天才的発想で乗り越えていく将太の姿を見守っていたかった。

 

 

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誰にも何も言われず、フローズンと漫画の生活をつづけた3日目に、母の携帯に先生が連絡した。家に帰ると、激怒して早帰りした母が、まだ明るい時間に晩ごはんの準備をしていた。なぜ学校へ行かないのか、どうしてなにも相談しないのか、嘘をついて何処へ行ってたのか。母は、続けざまにいくつも質問をぼくにした。でも、そんなに特別な理由がなかった。あるとしたら、将太と佐治安人のサバを使った、光り物対決が気になって仕方ないぐらいだった。すごいんですよ。知ってます?関サバって。黄金のサバって。お米の洗い方に、拝み洗いってあるんですよ。タコは大根でなぐって煮込むと、すごい柔らかくなるんですよ。小豆とかもいいです。お茶っ葉もいいです。

 

 

 

 

9月1日は、子どもの自殺がいちばん多いらしい。

 

ニュースで読んだ。気持ちも分からなくはない。いじめにあってる子だったら、そりゃ最悪な月初ですよね。二度と顔を見たくない人と会わないとダメだし、学校は守ってくれないですもんねぇ。登校するというのは、すごく力がいることだし、クラスにいることは、すごく心が苦しいことだろうなぁ。

 

そうだよ、ドリームへ行けばいんだよ。個室にこもって、フローズンを食べながら、『将太の寿司』を1巻から最後まで読んでほしい。読み終わったら、全国大会編を1巻から最後まで読んでほしい。すごく面白くて、学校に行きたくない理由が「読みたい漫画があるから」になるから。

 

 

学校に行きたくない理由を、嫌いなやつのせいにするのはもったいない。

 

 

いまごろ、絶望的な気持ちで夏休みをすごしている人がたくさんいると思うんです。ぼくも、もう四捨五入したら30歳になる立派なおとなですけど、それでも会社の夏休みが明けた月曜日は絶望していました。でも、仕事が嫌とか、上司と会いたくないとか言いたくないんですよね。「どうしても、観たい映画があるから」「もっともっと、夜中までラジオを聴いていたいから」そんな理由で、会社に行きたくないと叫びたい。

 

 

何が言いたいか、ごちゃごちゃしてきました…。

 

 

どうせ嫌なことなら、自分の好きなことを理由に、拒否してみたらいいんじゃないかと思うんです。こんなに、世の中に楽しい物とか、面白い物とか、かわいいアイドルとかがいるのに、自分が好きなものでもっとワガママを言えばいいと思うんです。

 

「嫌いな人たちがいるから学校に行きたくない」と言うよりも、「将太の寿司のつづきが読みたいから学校に行きたくない」と言ってやったらいいんです。イジメられていようが、何もやる気がなかろうが、せめて、好きなものを理由にしてあげないと、自分がかわいそうじゃないですか。すごい面白いんですよ、全国大会編も。将太のクラスメイトに、すげぇ性格の悪いやつがいて、いっつも邪魔するんです。市場の魚をほとんど買い占めされたりするんです。それでも将太は負けないんですよね、あきらめない。

 

 

「将太の寿司 敵」の画像検索結果

 

 

で。

 

ぼくが一週間夏休みを延長して、何を得たのかと言われたら、とくにありません。お寿司をうまく握るための知識と、フローズンは食べ過ぎたらおなかを壊すことを知ったぐらいです。みんなが勉強しているときに、うたた寝したり、親に怒られたりしてました。何一つ、おすすめなんてできません。本当はちゃんと学校に行って、勉強して、内申点を上げたほうが絶対いい。

 

 

でも、それでも、やっぱり学校に行くのがちょっとしんどいなぁと思った人は、漫画喫茶に行ってください。できればドリームという店を探してください。やる気のなさそうなおばちゃんに、個室ブースを依頼して、フローズンを食べながら漫画を読んでください。もちろん、何を読むのかわかってますよね。

 

 

 

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寿司を食べれないから興味がないとか、漫画は読まないとか、そんなお金がないとか、近所にドリームが見つからない人は、もっと楽しい何かをたくさん探してください。YouTubeみて、大好きなアーティストを増やしてみるとか、あこがれる人を見つけて、その人に近づくためにできること探すとか。今ならまだ、間に合います。

 

 

夏休みを延長するなら。学校をちょっとサボるなら。どうせなら、好きなことをしよう。その好きなことは、たぶんだけど、学校の先生から両親に電話がかかってきて、無理やり学校へ行かないとダメになって、本当の気持ちを誰にも相談できなくなったときに、絶対に自分を助けてくれるものになると思うんです。

 

 

ちなみに、将太の苗字は、関口です。

あと、柏手のヤスという人にも注目ですよ。

ぼくはエビ対決の下山が好きなんですが。



いい夏休みを、延長してください。

元気出して、サボろう。