得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

選手宣誓の思い出。

 

 新年が明けて、たくさんの人が今年の目標を宣誓している。

 ぼくもしてみる。

 

 「誠実に物事に向かいあい、書くこと考えることを頑張ってみます」

 

 みます。よろしくおねがいします。

 

 宣誓という言葉を聞くと、思い出すのは、

 高校野球や運動会の開会式で行われる選手宣誓だ。

 ぼくみたいなクラスの端っこで、ボーっとうたた寝している帰宅部には、

 ほど遠い世界の話のようであるが、実は経験があるのである。

 もし、読んでいる人の中で、選手宣誓の大役を任された人がいたら、

 なんでも聞いてくれてかまわない。

 

 

 中学校まで、水泳をやっていた。それなりに、しんどい思いをしながら。

 週に6回は練習があったし。土日は朝練と夕練があった。

 コーチは怖かった。ビート板で頭を何度もたたかれた。

 夏休みには1週間の合宿があったし、新年は2日から練習があった。

 もう今日には泳ぎ初めが終わり、普通の毎日がはじまっていたのです。

 ただ、結果は残せなかった。

 成長期が遅かったという言い訳をしておこうかな。

 高校2年生で10㎝ぐらい伸びたけど、中学校は太っただけだったから。

 そんなぼくだから、県大会に行けるか行けないかで中学校の夏は終わる。

 近畿大会や、全国大会に行く先輩や、妹をスタンドでぼーっと見ていた。

 というか、うたた寝をしていた。

 1年生も、2年生も、うたた寝をしていた。

 泳ぐのはしんどいから嫌いだったし、練習も憂鬱だった。

 オリンピック選手を夢見たのは小学校の1年間だけだった。

 選手宣誓をやったのは、中学校3年生の時。

 市内の水泳大会だった。

 

 

 試合の前日。突然、顧問の先生から電話がかかってきた。

 

 「明日の試合の選手宣誓をやる人がいないから、お願いできるか」

 引退した優秀な先輩方が、部内で唯一の3年生であるぼくに残してくれたのは、

 昨年度優勝校の選手宣誓の機会であったのだ。

 最悪だった。

 たった一人しかいない3年生のぼくが、拒否したら、先生は手詰まり。

 2年生が宣誓するなら、他の中学校がするほうが大会が成立するといった話だった。

 それは、さすがに後輩がかわいそうだ。先輩にも失礼だ。

 電話を切ってから、死にそうな顔をしなが風呂に入ったのを覚えている。

 

 

 「わたしたちは、正々堂々、最後まで泳ぎ切ることを誓います」

 

 要は、言ってほしいのは、これだけだとのこと。

 前後には、なんか言わされる内容があったけど忘れた

 試合当日、開会式。

 それなりの人数の学校、父兄様が見守る中でぼくは選手宣誓をした。

 緊張した。人前で話すことは大嫌いだった。

 足は震えるし、汗はダラダラ。

 噛んだ。宣誓を噛んだ。

 そして、あたまが真っ白になって、何も言えなくなった。

 しばらく無言の時間がつづく。

 言葉が出てこない。どっかに消えてしまった。

 

 「一生懸命がんばります」

 最悪これだけ言えばよかったのに、それさえも出てこなかい。

 あれほど、プールに飛び込みたかった瞬間は選手生活でなかった。

 

 そこから先、ぼくが何を言ったかは全く覚えていない。

 覚えているのは、逃げるように自分の待機場所へもどっていった時に、

 周りの人達からクスクスと、馬鹿にされたような笑いをされたこと。

 後輩達にも、馬鹿にされたことぐらいだった。

 こんなことなら、いっそのこと、電話の時点で拒否すればよかった。

 プールに飛び込んで、大会をめちゃくちゃにしてやればよかった。

 やりたくもないのに、無理やり宣誓をさせられ、笑われ者になった。

 

 

 いまになっては、どうして、

 「ぼく以外の人が、全力でベストを尽くすことを誓います」

 と言ってやらなかったんだろうと思うばかりだ。

 苦い思い出。すごくすごく苦い思い出。

 

 

 宣誓は、本当に思っていることを語るべき。

 きっと、ぼくには「一生懸命」がそこになかったから、

 言うべき内容がどこかに消えて見つからなかったのだろうと思う。

 

 SNSには、いま、たくさんの宣誓があふれている。

 ぼくの宣誓も、そのひとつだ。

 

 冒頭に誓った言葉をもう一度。

 

 「誠実に物事に向かいあい、書くこと考えることを頑張ってみます」

 

 たくさんの宣誓が、すべて素晴らしい一年をつくりますように。

 ぼくも、がんばります。

 

 泳ぐのは苦手で嫌いだったけど、

 好きなことで宣誓した以上、

 逃げずにいこうと思います。

 

 来月には、今年の宣伝会議賞の結果も出ます。

 うまくいかないかもしれない。

 水泳でいうとこの、ベストは出ないし、決勝にものこれないかもしれない。

 それでも、しっかりと向き合うべきだと思ってます。

 

 

 

 去年よりもひどかったらどうしよう。

 あぁ、考えただけでも胃がむかむかする。