得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

阪神が負けても、酒がのめるぞ。

 

酒がのめる 酒がのめる 酒がのめるぞ~

阪神が勝ったら 酒がのめるぞ~

 

という歌があったけど、

ぼくの父もそんなところがあった。

阪神が負けると本当に機嫌がわるい日があった。

 

年間140試合以上もある競技で、

1回負けたぐらいで不機嫌になられたら、

子どもからしたらたまらない。

 

逆に、勝った日にぼくたちに何かいいことが起こるかと言えば、そうでもない。

酒がのめる のめるぞ 酒がのめるぞ

なのであーる。

 

いま考えると、ふしぎだ。

大人が、好きな球団が試合に負けたぐらいでそんなに不機嫌になるものだろうか。

どうして、父はあんなに阪神の勝敗に左右されていたんだろう。

 

ぼくも、いまは父とおなじように毎日仕事へ行き、家へ帰る生活。

大学生の時とはちがい、平日はほとんど同じようなことの繰り返し。

 

毎朝眠たいのに会社にいって、ありえないノルマを課され、

お客さんには無理を言われ、上司には気をつかう。

ストレスはどこかに蓄積されて、睡眠したら、またおなじことのくりかえし。

 

こんなものと、親は毎日戦っていたのか 親ってすげぇ

と、社会人になっていちばんはじめに思いました。

 

 

火 水 木 金 土 日

 

これは、プロ野球の試合が行われる曜日。

 

月曜日をのぞく、ほとんど毎日です。たまに月曜もあるけど。

春から秋ぐらいまではつづきます。

 

週休2日制の会社に勤務していたとしたら、

勤務するほかの5日は、

かならず何かが起こります。

 

仕事で失敗したり、理不尽な目にあったり。

かと思えば、

うまく物事がすすんだり、ラッキーが舞いこんできたり。

 

その一日の最後のほとんどに、

野球の試合があったのです。

 

 

モヤモヤしながら仕事から帰ってきて、

テレビをつけたら阪神が負けている。

 

なんやねん…どいつもこいつも…

一日抱えていた気持ちを

家族には出さないように、出さないようにしていた父の緊張がきれる。

 

だけど、

仕事がうまくいかないから機嫌がわるい が、

阪神が負けたから機嫌がわるい に、

形をかえて出てきていた。

 

だから、

ぼくはなんでお父さんは阪神が負けたらあんなに機嫌がわるいんだろうって、

今日まで思い続けられていた。

 

阪神が試合に勝ったぐらいで、喜びすぎな日もあった。

それはそれで、何か良いことがほかにあったんだろうと思う。

 

 

それはそれで、良かった気がする。

父親が、父親らしくあるために、阪神の試合があったのだ。

 

べつに、机をひっくり返したり、

ベロベロに酔ってお母さんに手をあげたりすることもなく、

誰とも話さず眠りにつくだけだった。

 

そして、また次の日も、

なにくわぬ顔で仕事へ出ていく。

今日がどんな日になるか、分からないまま。

 

いま気づいてよかった。

心からそう思う。

 

 

 

なんで気づけたかというと、

ぼくは、ぼくで、

大好きな広島カープが負けた日は、

ちょっと悔しかったりするからだ。

 

たった140試合ぐらいのうちの、1試合なのに。

 

でもその1日は、

ぼくにとって、誰かにとって、

とてもしんどい1日だったり、

すごくしあわせな1日だったりする。

 

その感情を、うまく解消できない立場の人が、

世の中にはいっぱいいる。

 

 

大丈夫、野球が待っている。

今日を悔しがったり、喜んだりできる理由づくりに待っている。

 

 

実家に帰ったとき、

阪神タイガース 対 広島カープの試合を父が観ているときがあった。

 

その日は、カープが圧勝したんだけど、

父は平気なかおをして、

酒がのめるぞ~をしていた。

 

そうか。

 

あの頃から時間はたっぷり過ぎて、

今度は、ぼくが悔しがる番なんだなと思って、

 

すこしだけ、さびしかったなぁ。