得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

電車の並走が好きな理由

晴れた昼下がり、電車に乗っている。
席はうまっているが、車内は比較的空いているようだ。
ドアの近くに立って、外をぼーっと眺める。
すると、となりから別の路線の電車がやってくる。
ふたつの電車が、一時的に並走する。
となりの車両に乗ってる人の顔が、判別できるぐらいの距離。
しばらくすると、さけるチーズのように道は分かれ、2両はそれぞれの目的地へ向かう。
そして、遠ざかっていく、見知らぬ人たち。

 

 

ぼくは、この光景がすごく好きだ。
今日も、電車に乗っていて、この一瞬を見つけた。
もし、ここがぼくの通勤路だとしたら、毎日ドアの近くに張り付いて、その瞬間を待ちわびるだろう。

どうして、好きなのか。
それを今日、いくつかの観点から書いてみることにする。

 

 

①電車たちのコミュニケーションが見えてくる

機関車トーマスを思い出してほしい。トーマスはともだちのパーシーやゴードンや、エドワードやトビーやヘンリーやエミリーや(うーん、あと誰がいただろうか)…まぁそのへんの乗り物仲間とよく並走する。

雑談を交わしながら、「おぉ、ゴードン!今日の調子はどうや?」「ぼちぼちでんな」みたいな会話をして、「ほな行ってくるわ!」と手を振って分かれていく(機関車に手はないが)。
そういった、無機質なもの同士のコミュニケーションが、この並走には潜んでいると思うのだ。

 

もしこれが、別の会社の電車同士ならもっと面白い。

「あれ?阪急はん、えらい遅いでんな」
阪神はん、最近事故が多いと聞いてまっせ」
「…お先に失礼しまっさ」

勝手に会話がはじまっていくのだ。

 

近しいもので言えば、バスの運転手さんが、向かいからくるバスの同僚に、笑いながら手を挙げる瞬間だろう。
「あっ、やりとりしてる」と思えてくる。それが妙に人間っぽい気がする。
だからぼくは、電車の並走が好きだ。

 

 

 

②見えなかった日常が車両の中にある

電車が並走する時、向こうの車両が丸見えになる。
スマホを触っている女子高生、漫画を読んでいるサラリーマン、寝ているおじさん。赤ちゃんをあやすお母さん。
いろんな人間模様がそこにはある。
なんだったら、サラリーマンが読んでいる今週のジャンプを覗きこんで、ハンターハンターの連載が再開したことに気づくことだってできる。

 

普段、こんな顔してスマホをいじっているのだろうか。寝ているとこんな姿なのかなぁ。
向こうの電車に乗っている人は、完全なる別世界を生きている。
向かう先もちがう。乗ってる電車もちがう。
だからこそ、ドキュメンタリーのテレビ番組を見ているように、扉ごしの日常をのぞくことができる。


「じぶんも、こんな感じで生きているのか」と、一瞬のあいだに思うことができる。
だから、ぼくは電車の並走が好きだ。
きっと、あれは数秒の日常を眺めることができるドキュメンタリー番組なのだ。

 

 

③向こうの車両にはロマンがある

SF小説なんかでよくある話だが、われわれ地球人も別の星の住人からしたら、異星に住む宇宙人であるという捉え方をひっぱり出してきます。

 

遠い遠いどこかの星で、地球人とは異なるカラダのかたちをした生物が、望遠鏡で地球を見ている。

 

「パパ、あの星には宇宙人がいるんかなぁ」
「そうやなぁ、おったらええなぁ」

 

その頃、地球のどこかの家の庭。

「パパ、あの星には宇宙人がいるんかなぁ。
「そうやなぁ、おったらええなぁ」

お互いにおなじようなことを思って、宇宙の何万光年はなれた場所から互いに見つめあっている。なんだか、壮大なロマンを感じませんか。宇宙人が関西弁なのは、ひとまず置いときましてね。

 

こういうロマンを、ぼくは並走する電車にも感じているのです。
車両は星です。中に乗ってる人たちは、その星の住人です。

ぼくが、「あっ、あんな怖い顔で電車に乗ってる人がいるんや!」とか、「気持ちよさそうに寝てるんやなぁ」とか、「仕事で悩んでるのかなぁ」とか、そういったことを考えながらとなりの電車を眺めている時、おなじように、こっちの車両を眺めている人がきっといる。となりの星の住人をみて、クスクスと笑ったり、なにかを思う人たちがいるはずなのです。

 

おなじ時、となりの別世界に、おなじことを考えている人がいるかもしれない。
その瞬間は、わずか数秒。
ぼくも、誰かが眺める日常の一部になる。
それを信じることに、とてつもないロマンを感じてしまうのです。

 

 

 

これらの3つが、ぼくが電車の並走が好きな理由だ。

もし、これを読んだ人が、どこかで電車の並走に出くわした時、こう思ってほしい。

 

あなたがこっちを眺めているとき、どこかであなたのいる日常を眺めている人がいる。
あなたの眺める日常に、ぼくがいるかもしれないし、ぼくが眺める日常に、あなたがいるかもしれない。

 

あぁ、電車の並走は最高だ。
あと、古今東西機関車トーマスの仲間!ってお題は、めちゃくちゃ難しい。