マジックは1
広島カープの優勝マジックが、あと1に迫っている。
広島で停まって、新大阪へやってきた新幹線は、優勝をおあずけにされたカープファンをたくさん乗せている。東京までご一緒している、となりの知らない人もそうみたいだ。
今日、勝てなかったけど、カープはおそらく、明後日ぐらいには優勝するだろう。なんとまぁ、三連覇である。
ぼくが、プロ野球に興味を持ち始めた頃、広島と横浜は5位と6位が定位置だった。それが、昨年は広島と横浜がクライマックスシリーズを戦っているのだから、驚きである。
ぼくのおじさんは、カープファンだった。
5位と6位で椅子取りゲームをしている頃、関西が「阪神優勝や!」と騒いでいる頃、おじさんは広島を応援していた。
3年前、おじさんは亡くなった。カープが優勝し、緒方監督が宙を舞う日の、半年ぐらい前に息を引き取った。
おじさんは、面白い人だった。シニカルとか、ウイットが効いたとか、そういう「なんだかよく分からないけど、クスッと笑ってしまう」という言葉は、おじさんのためにあると思っていた。
おじさんは、お酒が好きすぎた。いや、嫌いだったのかもしれない。でも、とにかくよく飲む人だった。
飲んでなければ、いま、カープの三連覇を一緒に心待ちにしていただろう。
おじさんが亡くなって、家を掃除に行った時、お酒が家のそこら中から出てきた。当時、中学生だったいとこの部屋からも、何本も出てきた。
「お酒に負けた」と言ってしまえばそれまでだけど、ぼくはシニカルで、ウィットが効いてるおじさんをよく知っている。小さい頃から、よく遊びに連れて行ってもらったからだ。
プロ野球も、漫画も、音楽も、おじさんの影響を受けていると思う。日曜の昼下がりに遊びに行ったら、奥田民生が流れてるような、そんな家だった。
昨日、いとこの子が遊びにきた。実家に来て、一緒に手巻き寿司パーティーをした。
母親が言う。
「あんたら、何か手伝いぐらいしなさいよ」
「うーん。ほんなら、好きなネタ選んで巻く係をやるわ」
「そんなもん、手巻き寿司は、巻いたらすぐ食べるやないか」
いとこの子は、そのやりとりを気に入ってくれた。同じように、「巻く係」を担うと手をあげた。
おじさんのように、すこし理屈っぽくふざけてみたら、笑ってくれた。
そして、一緒にBSの広島カープの試合を観た。今日は優勝しないけど、とか言いながら、巻く係をまっとうして、食べる係も兼任した。
おじさんは人生の最後のほう、すこし家族に迷惑をかけていたようだ。だから、いとこの子からしたら、その印象が強いままになっている。
ぼくにできることは何か。
たぶん、理屈っぽくふざけて、広島カープの優勝を喜ぶことなんじゃないだろうかと思っている。
面白いおじさんに、たくさん影響を受けたぼくが、楽しそうに生きてれば、それでいいんじゃないだろうか。
そうやって、形がなくなっても、人は繋がって存在していく。終わり方がどうであれ、変えていけるはずだと思う。
実家に帰るときは、ちゃんと連絡をしておこう。次に帰る頃は、カープの日本一について語り合える気がするのだ。
仕事に、へこたれてなんかいられない。
頑張れカープ、優勝だ!
今年は、日本一まで行ってくれ!