得も損もない言葉たち。

日常をひとます、休まず。

あなたのクスッとをください。

ありがとう、家。

 

玄関を写真に撮りたい日があった。

 

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あふれかえった靴を、うれしく思った。整理整頓ができてないわけじゃない、この靴たちの持ち主は、みんながみんな違う人だ。

ぼくが一人暮らしをしている家に、10人以上の友人がやってきた夜があった。部活の何かがあった後だろう。騒がしい部屋の写真よりも、この玄関の状態がしあわせの全てだと思って、こっそりとスマホをかまえた。

 

祖父が亡くなってから、家の管理はぼくがしている。相続云々が終わるまでと言いながら、はや4年以上も一人でいる。

 

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実家は、この家から電車で30分ぐらいの距離にある。帰ろうと思えばいつでも帰れる。それでも、どうしてぼくはこの家にいたのか。大学生でお金も無く、バイトでもらったお肉で生き延びながら、光熱費を払って、通帳残高を50円にしながら、それでも生活をつづけ、今でもそうしているのには理由がある。

 

 

ここには、思い出がありすぎる。悩んだ時間が、多すぎる。

 

水泳の練習から帰ってきた夏休み、お昼の『大好き!五つ子』を楽しみにしていたこと。高校に通うのがしんどくてたまらない時、二階のベッドで、ずーっと漫画を読んだこと。花札を祖父から習って、母に呆れられながら遊んだこと。野球中継を眺めながら、一度好きと言って以来、毎週のように出てきたナスの田楽を食べたこと。それから、一人暮らしになって、たくさんの友人が家に来たこと。節分の日には豆をまき、実家サイズの鍋でパーティー、誰かの恋愛話を聞いたりなんかもした。

 

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就活がうまくいかなくて、一人で泣いたこと。

仕事で悩みが絶えなくて、家がぐちゃぐちゃになり、ゴキブリがいたこと。

大量の原稿用紙に、何度もキャッチコピーを書いて、そのまま寝落ちしたこと。

朝が来て、絶望を感じながら仕事へまた行ったこと。

自己PRとは何か、自分のことについて一人で考えるしんどさと向き合ったこと。

 

 

どうしても働きたい会社が見つかり、その応募用紙をニヤニヤしながら、いつもの席にすわって書いたこと。書いては消してを繰り返し、郵便局に行く前に仏壇に手をあわせたこと。

 

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奇跡が起きて、夢にまで見ていた仕事ができるようになり、ガッツポーズを枕にたたきつけたこと。

 

 

 

この家には、あまりにも色んなぼくの感情が入っている。喜びも、葛藤も詰まっている。

 

 

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この夏、ぼくは東京へ行く。

新しい職場は、残念だけど、この家からは通えない。

新幹線で毎朝始発に乗れば、可能かもしれないが、それは無茶だ。

 

 

この家を出ないといけない。

 

 

家は、人が住まなくなると荒れる。営業で個人宅をまわっていたから、その言葉がよく分かる。人が住んでいない家は、インターホンを押さなくても何となくわかる。温かみというか、生活の気配がしてこないのだ。ポストや、扉、窓のさん。じーっとしているものは、色褪せたり、ヒビが入ったりする。ぼろいというより、眠っている。

 

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友人もみな、「あの家はどうなるん?」と聞く。おめでとうよりも先に、そのことを聞く人もいた。

 

どうなるのか、それはぼくが決められることじゃない。相続は順番だ。銀行員生活で学んだ。固定資産税を払って、いつかぼくが定年退職をして戻ってくるまでのこしておけるならそうしたいが、40年以上先の話は、あまりにも未知でどうしようもない。人に貸すのか、それとも潰して現金化するのか。選択肢はいくつもある。

 

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できれば、ずっとこの家にいたい。でも、夢がある。やりたいことがある。

新しい葛藤が、この家の中に浮いている。いつもと同じパターンだ。

 

ただ・・・・、どうするべきか、いつも答えは決まっている。祖父がいたらこう言うに決まっている。

 

「お前の好きなようにやったらいい」

 

 

もう一度。

 

この夏、ぼくは東京へ行く。

ひとまず、ありがとう、家。

 

また帰ってくるさ。