得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

名前のつけようがない一日。

 

今日、あぁ~ええなぁ~と思うものを見た。

 

夕方の小学校、となりを自転車で走っていたら、その光景があって、停まってしまいました。休日に少年野球をながめるおじさんのような目を、きっとぼくはしていたでしょう。

 

校庭を日本の国旗が走っている。オリンピックで選手たちがたくさん見せてくれた、国旗を両手でせおうシーン、あれをやっている少年がいたのだ。風になびく日の丸、小柄な体はすっぽりと隠れてしまい、足だけがパタパタと土煙をあげている。

 

すごく写真におさめたい光景だなぁと思ったけど、これはちょっとやばい。校庭で遊んでいる小学生を、学校の外からカメラで撮っている大人は危険な香りしかしない。

 

少年は、なんの競技で優勝したのだろう。どんな舞台で、ライバルと競って、辿り着いたシーンを想像していたのだろう。

 

夢があっていいなぁと思いながら、平昌で世界に挑んだすべてのアスリートがくれた光景を、ただただ目に焼き付けて帰った。

 

 

 

 

支店へもどると、一件の電話が入っていた。

 

 

 

電話の主は、はじめて見る名前だった。はじめて見る名前だったけど、ぼくはその電話の理由は分かった。だって、苗字が一緒だったから。

 

 

先日、ここに『酒とたばこと女のための資産運用』を提案したお客様のことについて書いた。はじめて投資信託を買ってくれたおじさんで、サボっているところを目撃されたり、お孫さんの話をしたり、よくしてくださったお客さんだ。彼はいま、肺がんを患い入院している。

 

 

今日、かかってきた人は、その人とおなじ苗字をしていた。

 

 

まだ若々しい声は、ぼくに、お父さんの現状を教えてくれた。お父さんが持っていたぼくの名刺をみて、電話をかけてくれたようだ。もちろん、何かあったときの手続きについての確認でもあった。

 

 

いま、おじさんの意識は、ほとんどこの世にいないそうだ。先日、お見舞いでいちご大福をとどけたとき、すこしだけ笑ったおじさんは、いまこれを書いている間も病気と闘っている。

 

その間も、ぼくが買ってもらった投資信託は値動きを続け、利益を出したり、損失を出したりしている。なんだか不思議だ。お金も一緒に生きている。おじさんがこの世にいなくなって、相続が発生するまでぼくと彼のつながりは消えない。いまも、酒とたばこと女のための資産運用は続いている。

 

 

息子さんは、ぼくに無理難題を言わなかった。手続きについても、言葉を選ぶのに必死なぼくを察してくれたのか、また何か聞きたいことがあったら電話しますと、お礼を言ってくれた。きっと、いちご大福のお礼だ。ぼくは、そんな大したことを何もできていない。あげたのは、いちご大福が6個。それだけだ。

 

 

次、おなじ電話番号から連絡がきていたとき、どんな気持ちで、ぼくはそこへかけ直すのだろうか。直接出てしまったらどうしよう。「なかむらは異動になりまして・・・・」と言って、窓口に相続の手続きをぜんぶ任せてしまうこともできる。

 

 

 

「なんかあったら、この人にぜんぶ相談しなさい」

 

 

お父さんがそういったと、息子さんは何度か言っていた。

 

 

 

 

転職活動をしています。仕事をしていて、嬉しかったことや、なにをやりがいにしているかを、エージェントに聞かれてすごく困っています。こういう話をしても、苦笑いされちゃって、だからどうってことになってしまうのです。

 

でも、いま、ぼくの心はすごく温かいです。校庭で走っていた少年も、病気と闘っているおじさんも、おなじように、支えてもらっている気がします。

 

 

しまりのない文章になりましたが、今日はそういう一日でした。