得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

練り消しづくりは、つづく。

 

今週の水曜日から、2泊3日の研修にいっていた。

 

3年目の節目に、泊まり込みで施設にこもり、同期の子たちとグループワークをする。100人ほどいた同期は、研修で再開するたびに減っていき、いま70人ぐらいと聞く。

 

夜中まで班であつまって、朝に課題を提出する。これが、銀行の仕事じゃなくて、もっと楽しい企画会議とかだったらなぁと思ってしまう、それぐらいみんな良い人たちだ。ちがう場所で会えていたら、ぼくはもっと素直に仲良くできただろうし、たまに呑みに行ってると思う。

 

たぶん、ぼくがみんなの目を見て、まっすぐに自分をさらけだすには、同じ仕事している間は無理な気がしていて、それがすごくつらかったりした。

 

 

 

 

研修2日目。

 

ぼくたちの班は、朝に出した課題をこっぴどく指摘され、寝不足のからだを引きずりながら話し合いをしていた。

 

書いては消して、消しては書いて。生まれた消しカスを練りながら、ぼくたちはホワイトボードに提案内容を、机の上にはでっかい練り消しをつくっていた。

 

うまくいかんなぁ、帰りたいなぁ、眠たいなぁ。なんて言いながら、まっくろの練り消しを定規でのばして、センチ数を計る。30㎝のにょろにょろを完成させようと、講師の目を盗んでは作業をしていた。

 

お昼が明けて、もう一度、ぼくたちには山場がやってきた。ピンチになって、怒涛のように時間がすぎる。気づけば外はオレンジ色。神戸の港町が、夜景に変わろうとしていた。

 

 

 

「・・・・おれ、パパになったみたい」

 

 

 

昼からのプレゼンを担当した結果、講師につめられ、いちばん大変な思いをしていた彼がとつぜんつぶやいた。

 

奥さんから連絡が来ていたそうだが、忙しすぎて確認できていなかったようだった。つまり、汗をながしながら、ピンチに慌てていたとき、彼はすでにパパになっていたのだ。とりあえずみんなで「おめでとう!」と言った。しかし、本日の最終プレゼンは30分後にせまっている。もう時間がない。

 

しかも、話をするのはぼくだ。

 

 

「赤ちゃんに、ささげるプレゼンをするで」

 

 

なんてかっこいいことを言ってみたけど、彼はうわのそらだった。念願の子どもを授かったことに、なんとも言えない嬉しそうな顔を浮かべている。

 

数時間前まで、ふつうのサラリーマンだった彼はパパになった。ひとりがパパになった以上、帰りたいとか、疲れたとか、眠たいとか、ちょっと言いづらいような気がしていた。

それが昨日のことだ。

 

 

 

そして今日、最終日をむかえた。

 

びっくりしたことがある。

 

パパになった彼が、あいかわらずくだらない雑談をしながら、練り消しを作っているということだ。

 

親になるという責任は、練り消しを作れなくすると思っていた。「帰りたい、しんどい」と言えなくなることだと思っていた。だけど、彼はぼくたちと同じように愚痴りながら消しカスをまとめている。30㎝をめざして、ゆびさきを動かしている。

 

父になるということを、重く受け止めすぎることは、あんまりよくないなぁと思った。「あいつ子どもいるくせに、もっと責任を持てよ」とか言われる気がして、何もできなくなるような気がしていたけど、そんなことは全然ない。

 

 

やっぱり仕事はしんどいし、練り消しづくりは楽しいのだ。

 

 

同い年で子供がいるからとか、いないからとか、そんなことは関係ないのだ。そこで線を引くのは、とてもつまらないことで、精神年齢が一緒であるかぎり、ぼくたちはずっと同じことをして遊んでいけるし、文句を言えるんだ。

 

 

雑談はつづく。初日よりもずっと、じぶんの話をそれぞれができた気がする。ちょっとだけど、いまのぼくの向上心がこの仕事に向いていないことを、告白しようか迷った。心をもっと開いてしまおうか迷った。

 

 

そう思った頃に、たいてい時間はきてしまう。

 

 

偉い人がやってきて、ご訓示をいただき、怒涛のように研修は終わりをむかえた。

 

 

 

いま、帰ってきて家にいる。ようやく帰ってきたわが家だ。最高。もう泊まり研修はやりたくないし、月曜日の仕事はつらい。というか、全曜日つらい。

 

 

だけど、練り消しづくりや雑談はすごく楽しかったのです。みんながそう思っていたかは知らないけど。

 

 

でも、また会ったとき、みんなの精神年齢がまだおなじだったら、また消しカスをゆびさきでコロコロして、つぎは45㎝を目指したいと思う。

 

もし、そんな感じじゃなくて、ぼくの精神年齢だけがお子様でも、それは結婚したからとか、子どもができたからとか、そういう強制的なイベントがきっかけとかじゃなく、それぞれがじんわりと色んなことを考えて変わっていったことなんだと、そう思って拍手をしたい。

 

 

それまでは、練り消しづくりは、つづく。