得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

自転車を大切にすること。

 

今日が仕事納めだったので、さいごに自転車を拭きました。

 

 

ふだんは自転車に乗って営業をしています。お家を一軒ずつ周るので、自転車は適しています。インターホンを押して留守だったら、即座にまたがり動き出せます。ぼくにとっては、おそらく一番大切な仕事道具です。電卓ではありません。

 

 

その自転車なのですが、いまは2代目に乗っています。新入社員のぼくに与えられた、初代の相棒はとんでもないやつでした。

 

 

まず、バッテリーが2分で切れる。前輪と後輪のタイヤが仕様がちがうので、空気入れがとても面倒。謎の海外メーカーの商品ゆえに、修理するにもパーツがない。車体がゆがんでおり、ブレーキは常時かかり続ける。

 

電動アシストは何も支持していないのに、忘れた頃に突然やってくる。表現するならば、『ど根性ガエル』で、ピョン吉に引っ張られる主人公のひろしのような感じです。自分の意思とは反して、願ってもいないのにアシストしてくれるので、なんども事故にあいかけました。

 

 

いいかげん困り果て、職場の近くの自転車屋さんへ行くことに。

 

 

「いい自転車のさせてもらってるやん(笑)」

 

 

この道50年の自転車屋さんのご主人が、苦笑いしながらぼくの相棒に触れました。そして、この自転車のどこを直すべきか、修理する必要がある場所はどこかを言いながらメンテナンスを始めました。

 

 

「こりゃあかんなぁ~」とご主人は嘆いていました。話を聞いていると、ぼくの自転車はいろんなメーカーのパーツを寄せ集めて作られたもので、フランケンシュタインのような怪物。手を施すところがありすぎるみたいでした。

 

 

(やばい、新しい自転車を勧めてきそう・・・・)

 

 

新しい自転車を買う予算がないのは分かっているし、ご主人に勧められたら困るなぁとぼくは思っていました。でも、商売人なら、ここは当然営業してくるよなぁとか考えながら。

 

 

「でもまぁ、ちゃんと走れるようにはしといたよ」

 

 

返された自転車は、常時かけられるブレーキは治り、車体のゆがみも修正されていました。またがってこいでみると、めちゃくちゃ快適でした。

 

 

「あのぉ、お代は?」とぼくが聞くと、「いやぁ、パーツも何も使ってないからいらんよ、でも事故せんようにたまに持っておいでや」とご主人はすこし汚れた手を振りました。

 

 

それからは、もう通いつめです。なにせ、フランケンシュタイン。次から次へと異常が発生するのです。そのたびに、ご主人はぼくの自転車を修理し、「さぁ、がんばってらっしゃい」と送り出してくれました。

 

自転車屋さんがある場所は、ぼくの営業エリアではありません。ほかの人が周っている地域だから、営業もしませんでした。だけど、自転車が悲鳴をあげるたびに行くので、どんどん親しくなっていき、お取引もちょっとだけしてくれるようになりました。

 

 

 

人と、人のつながりは、ジグソーパズルのようなものだと思います。人それぞれにある長所と短所がかみ合うようにして、繋がりあう。

 

 

なにか自分に足りないものがあるから、人は人に魅かれていく。それはおなじ友人という関係性でも、それぞれに違うと思います。似た者同士であつまっているつながりでも、やっぱりそこには、自分にはないものを持っている友人がいる。

 

 

その微妙な凸と凹に気づけたときに、ぼくたちは出会えたことをとても幸福に感じることができるし、運命と言うものをかみしめられる気がします。

 

「俺たちって本当に似てるよなぁ」といって肩を寄せ合うより、「似てるけど、でもお前のそういうところが好きだし、長所だと思えるよ」と言えるほうがきっと長く一緒にいられる。そのきっかけは、相手と自分のちょっとした違いを理解し、そんなぼくたちが出会った理由に感謝することだと思います。

 

おおげさな話になりましたが、今回の出会いを通じて、そんなことを感じていました。

 

 

ぼくは、自転車がフランケンシュタインじゃなかったら、このご主人と仲良くなることはありませんでした。自転車修理のこだわりや、パーツの名称を知ることもなかったし、お取引をすることもなかった。仕事道具という外身の話ではありますが、この出会いを大切にしたいと思いました。

 

 

 

 

それから数か月後、ぼくは新しい自転車に乗っていました。

 

自転車屋さんで買ったものではありません。フランケンシュタインが、走行不可能になってしまった結果、ようやく本部がぼくに新しい自転車を送ってくれたのです。しかも、国産の電動自転車。ぼくがずっと求めていたものでした。

 

 

届いてびっくり。スペックは前評判通り、国産の電動自転車ですが、車体がショッキングなピンク色だったのです。

 

 

「どこの銀行員がピンクのママチャリで仕事すんねん」

 

 

ぼくは、心の中でツッコミぱなしでした。でも、実際に走るとその快適さにびっくり。色なんてもうどうでもいいぐらいに、最高な自転車だったのです。

 

 

営業初日、ぼくはまず、自転車屋さんに行きました。

 

 

すると、ご主人が飛び出してきて、

「おぉ~~~、ええ自転車買うてもろたやん!国産やし、色は派手やけど(笑)」

すぐにぼくの自転車を触ってくれました。

 

 

「でもさ、いい自転車だからってメンテナンスしなくていいわけじゃない、空気入れるだけでも持っておいで、大切に乗りなさいよ~」

 

 

今日の仕事納め、ぼくは年末のあいさつに、ご主人のもとへ行きました。周辺住民のお助け場になっている自転車屋はとうぜんのように営業をしていて、お客さんが並んでメンテナンスをうけていました。

 

 

「今年は本当にお世話になりました!」

 

「また来年も、持っておいでよ~」

 

 

簡単なあいさつをかわして、ぼくは支店にもどり、毎日乗せてくれた自転車を拭きました。大切に乗っていくために、拭きました。

 

フランケンシュタインがいなかったら、なかった出会い。物を大切に、人との出会いを大切に、一年を終わることができたことに感謝して、仕事を終わりました。

 

 

走り回った一年、つかれたなぁ。