5人乗りのちいさな社会。
先日、エレベーターに乗っていたら、
緩衝材のパネルにこんな絵が描いてあった。
低レベルな下ネタが、やまもりに落書きされたパネルに、
でかでかと書かれたベジータは、
せまいエレベーターでかなりの迫力を見せつけている。
そして、まわりにはたくさんの、
うまい! すげえ! といったコメントが書き込まれている。
きっと、「うんこ」とか書いていた少年たちが、
そのベジータを見て率直な感想を書いたんだと思う。
この狭いエレベータのなかに、
何人もの少年たちがいて、
実際に目をあわせることなく会話をしている。
すごく居心地のいい空間だった。
何日かに一回、
お客様の家へいくときに乗り込むのが楽しみでしかたない。
その絵に対する、コメントが増えていたりするからだ。
インターネットで何かを発信したいぼくの気持ちは、
きっとここにベジータを描きたい気持ちに似ている。
何かを誰かにみてほしくて、
ちょっとだけ評価もしてほしくて、
できたら「いいね!」と言ってもらいたくて。
どうや!って気持ちで書いているけど、
本当は誰も見ないかもしれないことに怯えていたりする。
「誰にも見てもらえなくたっていい、自分が楽しければそれでいい」
そんなことを言いたくなるけど、
たぶん、それを言ったら嘘になる。
「好きなことをして、誰かにみてもらいたい」
それを自由に何度だって、
やりたいだけトライできるのがインターネットのいいとこなんじゃなかろうか。
エレベーターで、誰かがその絵を見ているように、
このブログも誰かが見てくれている。
もちろん、そんな中身がないから、
有名な人が書く文章にはとうてい及ばない。
一日に10人ぐらいが、ぼくの日記をチラ見して行って下さる。
それでも、たまにコメントをもらったりすると、すごく嬉しい。
嬉しくて、小躍りできるぐらいだ。しないけど。
昨日、いつものようにエレベーターに乗り込んだ。
パネルは貼りかえられていて、
ベジータはどこかへ消えてしまったみたいだ。
そして、
そこには、でっかい孫悟空がいた。
ひとりの少年が開墾した、
エレベーターにドラゴンボールの絵を書くという畑に、
べつの少年が乗りこんできたみたいだ。
だが、そこに前回あったような勢いはない。
うまい! すごい! の言葉は書き込まれず、
完全にスルーされてしまっている。
「あ、これはぼくだ」
ぼくには、ここに孫悟空を書いた少年の気持ちがすごく分かった。
どういう気持ちでここに書いたか、
どんな気持ちで反応を待っていて、
毎日ずーっと過ごしているかが痛いほどに分かる。
分かりすぎる。
きっと、誰かに何かを発信したくて、見てもらいたくて仕方なかったんだ。
ベジータに贈られたコメントを、
自分もほしくてほしくて、
なにを書いたらいいか分からなくて、
結局、孫悟空を書いたに違いない。
毎日、学校から帰ってきて、
友だちの家に遊びにいくときや、
塾帰りにそのエレベーターに乗るのをすごく楽しみにしているはずだ。
一向に増えないコメントに、
じぶんの書いた孫悟空を見るのが恥ずかしかったりしてないだろうか。
同情でもなく、うまいと思ったし、何かを発信したい気持ちがよく分かって、
「いいね!」と書き込みたい気分になった。
でも、そうだ。そうなんだ。
きっと、エレベーターに孫悟空を書きこんでちゃダメなんだ。
誰かが開墾した畑で、
おなじように反応がほしくて、
何かをやっても仕方ない。
その思惑は悲しいかな、5人乗りのちいさな社会でも伝わってしまう。
誰かが、きっとどこかで見ている。
たくさん読んでほしいとか、
たくさん広まってほしいとか、
そこを目的にしちゃいけないはず。
何を伝えたくて書いているかだけを考えないといけない気がした。
ざんねんだけど、
ベジータの時に感じた勢いが、
孫悟空にはなかった。
身が引き締まる思いだ。
どうすれば、たくさんの人に読んでもらえるかじゃなくて。
どうすれば、たくさんの人に自分の思ったことを伝えられるかを考えなきゃ。
今日、ここで書いていることも、
「はぁ?何を言ってるんだ」
って思われるかもしれないし、
そもそも、ほとんどの人の目にとまることなく、
眠ってしまうかもしれない。
それはそれで仕方ない。
だけどきっと、誰かが見ていると思うのです。
レビューを書いたり、
ランキングを作ったりすると、
ブログの閲覧数が上がるのかって考えたこともある。
でも、そんな簡単なものじゃない。
その記事に込められた熱量は、
ぼくがどうしても書きたかった5人乗りの社会についての話とおなじ。
本当に大好きなものを紹介したいと思っている熱がこもっている。
だからこそ、人の心を動かしているに違いない。
そりゃ、かなわない。
だから、孫悟空を書くより、
もし、
あなたが俳句が好きならそれを、
なぞなぞが好きならそれを、
書いたほうがずっといいんだろうって思った。
エスカレーターやら、エレベーターやら、
駅の待合室やら、海辺のベンチやら。
なんだろうなぁ、
ちいさい社会を見るのが好きなんだろうなぁ。
孫悟空の少年の、
次回作が気になるなぁ。
壁をこえてほしいなぁと、
ぼんやりと考えていました。
あ、もし、
ベジータを書いた少年と同一人物やったらどうしようか。
うーむむ。
それはそれで、
社会は厳しいってことやなぁ。
どんなにデビュー作が売れた歌手でも、
2曲目も売れるかって言われたら、
それはそれで難しいもんなぁ。