得も損もない言葉たち。

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

日常をひとます、休まず。

あなたのクスッとをください。

仕事が嫌いだ。なのに、この街が好きだ。

 

三度目の春を、むかえている。

 

会社に就職して、銀行員という肩書をもらって、

毎日起きていちばんに「眠いんじゃ」てつぶやいて、

いつものメンバーで満員電車を構成して3年目をむかえる。

 

家から、駅までの道に、桜の木がずらーっと並んでいる。

会社の花見を、それなりの嘘でパスして、

帰り道の夜桜を楽しむ生活も3年目なのです。

 

 

さいしょの春は、入行式やら研修やら、

社会に順応させられる1ヶ月をすごしていたので、

気づけばゴールデンウィークに突入していた。

とにかく休みが待ち遠しい。

スーツを着ないで、平日の古本屋に行きたい。

あと、銭湯で湯船に、指がシワシワになるまで、浸かりつづけたい。

そんなことを考え続けて、研修中は居眠りつづけた。

 

 

きょねんの春は、営業にはじめて出た春だった。

1年の内勤を終えて、4月1日に出た辞令で営業に配属。

割り当てられた地区は、海の風がとても心地よい街だった。

なにも分からず、肩を痛めるぐらい重たいカバンをもって自転車にまたがる。

ぼくに与えられた自転車は、充電が5分できれる電動のやつ。

伝票のもらいかたを間違えて、なんど橋を全力でのぼっただろうか。

はじめて走る街並みには、ぼくのことを誰も知らない、

たくさんの人の生活があふれていた。

 

 

 

そして、三度目の春をむかえた。

なんとか、むかえられた。仕事が嫌で嫌で仕方がない。

営業の立場としての自分と、

お客様と一人の人間として向き合いたい自分。

その間で悩みながら一年間を、充電5分切れの相棒と走った。

海辺の街は、冬はこごえるほど寒い。

手袋をしていたって、おかまいなし。

だから、冬眠するようにコンビニのイートインで過ごした毎日。

 

今日は4月6日。陽ざしがとても暖かい。

 

 

気づいた変化があった。

気温の変化じゃなくて、ぼくに起きた変化。

 

 

お客さんと道中で会う頻度が、めちゃくちゃ上がったのだ。

どこを走っていても、

「 ださく くん!」って声が聞こえてくる。

振り向いたら、お客さんがいて、立ち話をする。

 

あったかくなってきましたねぇって話したり、、

トランプ首相のこと、

飼っている犬のこと、

お孫さんの受験のこと、

10分ぐらいお話をする。

 

春になって、暖かくなって、

お客さんがたくさん外に出ていらっしゃる。

みんな散歩をしながら、海の風と春の陽ざしを楽しんでいはる。

 

 

去年の春には、味わうことのなかった感覚。

街が、ぼくを認識している。

たくさんの人が、ぼくと充電5分切れを認識している。

それが妙に、うれしい。

 

 

 

話をむりやり脱線させるが、

こち亀が大好きだ。

 

小学生のころに、おじさんに貸してもらった単行本。

遊びより、勉強より、ポケモンより、こち亀

本屋さんに行けば、こち亀の最新刊をおねだり。

 

ある日、呆れたじいちゃんがぼくに言った。

 

「こんな勤務中にプラモデル作ってる警察おるわけない」

 

そんなことは分かっている。

べつにプラモデルで遊んでいる両さんが、

うらやましくて読んでいるわけじゃない。

下町を愛し、地元の小学生にベーゴマの投げ方を教えて、

ふだんの仕事はトラブルだらけだけど、

みんなに愛される両さん

人情味のあふれる話が大好きだった。

 

 

 

そうか。

三度目の春、

ぼくは両さんになったんだ。

 

街に認めてもらい、

たくさんの人に声をかけてもらって、

お菓子やらなんやらを与えてもらって、

調子に乗ったらすぐに、

仕事でやらかして自転車で汗だく。

駐輪場にとまった自転車で、ぼくが来ていることがお客さんにも分かるらしい。

 

 

それはそれで、サボりづらいと思うだろうが、大丈夫。

去年の秋にみつけた秘密の浜辺がぼくにはある。

大股をひらいて、鼻唄をかまして、

昼寝だってできる場所がある。

プラモデルは作れないが、スマホでゲームは楽勝だ。

 

 

今日もたくさん声をかけられたし、挨拶をした。

 

「このあいだ言ってた炊飯器、はやく持って帰ってよ~」

 

「さすがにそれは無理です…」

 

両さんなら、喜んでもらって派出所で使うだろうなぁ。

 

 

 

 

「おぉ~ださくくん!昼飯まだやろ?たべていき~」

 

 

両さんじゃないけど、よろこんでお腹いっぱいになった今日のお昼だった。

 

仕事が嫌いだ。

なのに、ぼくは、この街が好きだ。





 

三度目の春は、まだまだつづく。