得も損もない言葉たち。

日常を休まず進め。

あなたのクスッとをください。

ため息と、3本の飲み物と。

 

散々な日と、そうじゃない日がある。

そうじゃない日のほうが多いはずなのに、

にんげんって不思議だけど、悲劇の主人公になりたがる。

 

「あぁ、かわいそうなシンデレラ」

 

どっかの本で読んだのか、はたまたアニメでみたのか、

けなげに雑巾で床を掃除するシンデレラに森の仲間たちが言ってたセリフ。

 

 

あいつは、あんなに頑張っているのに報われない…

そう言ってもらえることを待っているような自分がいる。

とばっちりを受けて、気がどんよりと重い、

嫌な問題に巻き込まれて、頭がなんだか痛い。

そんな時に、窓の外からぼくを見て、

「あぁ、かわいそう」

なんて言ってくれる森の仲間がいたらいいけど、

そんなにうまくはいかない。

 

 

その日は、散々につぐ散々で、散々々々ぐらいの日だった。

自分のミスもあるけど、あまりにもな日だった。

 

仕事だけじゃなくて、自転車は壊れる、足は怪我する、

相続関係のごたごたに巻き込まれる。

一日に、なんどもため息がもれた。それも、何種類もの理由で。

恋をしていて出てくるため息ならいい。何回出てもいい。

だけど、何種類もの嫌なことで出てくるため息。

 

「これは、さっきのため息とはちゃうんやで」

と、すこしだけ自分でアレンジを加える。

 

ふ…ふぅ~

ふぅ~~~

ふ~はぁ~

はぁ!

等など。

 

 

やっとの思いで、夕方をむかえる。

はやく家に帰りたいのだが、仕事がまだまだわんさかある。

はやくお風呂に入りたいのに、まだまだ靴下はむれる。

 

 

やってられんと、支店を飛び出す。

ほんとうは、そっと立ち上がり、支店を出る。

 

となりの個人宅の前に置かれた自動販売機。

100円でペットボトルが買えるので、よくお世話になる。

当たりつき自販機で、たまに先輩が2本目の缶コーヒーをぼくにくれる。

ほんとうは、紅茶花伝がいいなんて言えない。

当たりはとつぜんにやってきて、一定の時間をすぎると無効になるのだ。

だから、7777と数字がそろったら、すばやく2本目を選ぶ必要がある。

 

その自販機の前に立つ。

悩む。

どうしよう。

 

がぶ飲みミルクコーヒーにしようか、

ウーロン茶のつめたいやつをグイッといくか、

それとも紅茶花伝にするか。

愛のスコールという手もある。

 

なやんで出した答えは、ウーロン茶のつめたいやつ。

喉のかわきをとりあえず潤したかったのです。

ミルクコーヒーや、紅茶花伝や、スコールだと、

やっぱりどこか満たされないかわき。

喉をすっきりしたい。とにかく今日はつかれた。

 

自販機の取り出し口へ、手をのばす。

下を向いたときに、また、ため息が出てくる。

つぎは長いやつ、はぁ~~~~~~ってながいのを。

 

動きはすごくスローモーションでして、

どんよりとした雰囲気をかもしだしていて、

雑巾で床を掃除しているシンデレラのような感じで。

だれもぼくを見ていないのは分かっているのに。

 

ゆっくり顔をあげると、あれ、自販機が光っている。

ぜんぶの飲み物のボタンが、赤く光っている。

当たってるやないかと、もう一本もらえるやないかと。

こんな日にかぎって、当たるもんなのだなって感心しながら、

限られた時間の中で、がぶ飲みミルクコーヒーを選ぶ。

 

 

まさか、当たるなんて。

散々な日だったけど、どこかで誰かが見ているんだなって思った。

いろいろ大変な一日だったけど、

この2本のウーロン茶と、ミルクコーヒーで許してあげようと思った。

喉を潤して、甘~いのも飲んで、満足して帰ろうと切り替えた。

 

 

 

こんなことで、機嫌をとりなおせるなんて、

なんて簡単なやつなんだろうって。

自分でバカにしながら、もう一度顔を上げる。

 

 

自販機が…光っている。

ボタンがすべて光っている。

紅茶花伝も、愛のスコールも選べてしまう。

 

おいおい壊れてるんじゃないのかって思いながらも、

時間制限があるから、紅茶花伝を選ぶ。

取り出し口には目をやらず、スロットの数字に目をやる。

 

7776と表示された。

 

そして、しばらくして、

また、すべてのボタンは光った。

愛のスコールも。

 

 

しばらく頭を悩ませても、ボタンは光り続ける。

 

 

 

う~む。そうか。

 

 

はじめから、当たってなんかいなかった。

1000円をいれて、100円のウーロン茶を買って、

ため息をしている間にスロットは外れて、

ぼくは自分のお金でもう一本買っていたんだ。

それなのに、また当たったと喜んで、

さらにもう一本おかわりしてたんだ。

 

 

好きな飲み物3本と、

700円のおつりを持って支店へ帰る。

 

 

散々な一日だ。

散々な一日だけど、ひさしぶりに、自分に笑わせてもらった一日だ。

愛のスコールは、また明日飲むとして、

今日はこの3本を自分へのご褒美として帰ろう。

 

 

悲劇であり、喜劇であり、

そんな一日を自分で生きている。

時に、思いもよらない、自分のアドリブに笑わせてもらうことがある。

明日は、まだ、誰も知らない明日だから、

憂鬱なことがまっているかもしれないが、

ドラマチックなのには間違いない。たぶん。

 

 

おわり