得も損もない言葉たち。

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日常をひとます、休まず。

あなたのクスッとをください。

25年目のサプライズ【ショートショート】

 

宇宙人ご一行は、ずっとその男を見てきた。

男が、少年だったころからずっとである。

今までに、たくさんの人間を見てきたが、これほど長く見てきたことはないようだ。

どれぐらい長いというと、男が32歳になるので、

だいたい25年程は見てきた。

 

 

男は、宇宙人を見ていなかった。

というより、見ることができなかった。

ただ、彼らがこの世に存在するということだけは信じていた。

周りの人間が、男の発言をどれだけ馬鹿にしたって、信じることをやめなかった。

たくさんの本を読み、平日の夜に時たま流れる、

一般的に『うさんくさい』と呼ばれる番組を録画し擦り切れるまで見た。

そして、時おり空を見上げては、

空にうかぶ謎の物体を探すことに人生を注いだ。

 

 

彼らは、男のことが興味深かった。

とにかく、自分たちの存在を否定する人間が多いなか、

男だけが、ロマンを感じてくれている。

それも、25年間ずっとである。

 

小学生は、自由研究をU.F.O.の図鑑を作成。

中学生は、天体望遠鏡をのぞき、星を観察。

高校生は、青春を放ったらかし、宇宙の研究に。

大学生は、もう一度、宇宙人の存在を肯定するための調査に全力を投じた。

卒業後は、NASAでの仕事を熱望していたが、願い叶わず、地元の役所で土地の調査を担当した。

やりたいこととは全く違う仕事をしていたが、それでもなお、

家に帰ると、宇宙のこと、そして宇宙人のことについての勉強を続けた。

そして、宇宙人と出会うことを夢見て25年目。

職場で出会った女性と結婚し、子どもを授かった。

 

 

「あの子も、とうとう結婚して、子どもが生まれたぞ」

 

「こんなにめでたいことは、ほかにないよ」

 

「ほんとうだ。しかし25年もあっという間だなぁ」

 

宇宙人たちの間で、いつも自分たちの存在を信じつづけてくれた男に、

何かプレゼントを贈ろうと会議が行われた。

文明の存在を示すような道具を贈ろうという案も出たが、

そういったことは、彼らの星では犯罪に値する行為であった。

 

悩みに悩んだ結果、ひとつの贈り物がきまった。

それは、『ロマン』である。

存在するのかもしれない。出会えるのかもしれない。

そんな希望が、男をつねに前へ前へと進ませてきた。

我々が存在するかもしれないというロマンこそが、

彼のエネルギーとなっていると宇宙人たちは定義した。

 

サプライズの方法も決まった。

彼が撮った写真に、こっそりと写り込むという手法だ。

シャッターを押した時には気づかれず、

男の趣味であるフィルムカメラの現像が仕上がった瞬間、

そこには宇宙人の存在をかすかに示す『ロマン』が現れる。

突然に現れた未確認飛行物体 U.F.O. に男は喜び、

より強いエネルギーになるに違いない。

 

 

そしてとうとう、宇宙人が起こす小さなサプライズは実行された。

男がシャッターをおろした瞬間に、

写真の真ん中を、未確認飛行物体が横切る。

男は気づかない。それぐらい早いスピードで前をよこぎった。

 

 

数日後、フィルムカメラの現像が完成した。

宇宙人たちは、男を今まで一番楽しそうに観察した。

男がどんな反応を示すのだろうか。

発狂して飛び跳ねるんじゃないだろうか。

写真を宝物にしてくれるんじゃないだろうか。

もしかしたら涙を浮かべるかもしれない、だって25年も信じてきたんだから。

 

 

男は、写真を眺めた。

にこにこしながら写真を順番に眺めていった。

フィルムカメラのいちばん楽しみな時間だ。

出来上がりを順番に眺めていく。

 

そして、手が止まった。

 

男の顔がゆがむ。

 

 

「なんだこれ。ワケの分からん影が入っちゃってるよ・・・最悪だ」

 

 

男の手に握られていた写真は、

娘がはじめて自分で立ち上がった瞬間の写真であった。

一度しかない、たった一度しかこない、

はじめてのあんよの写真だ。

そして、その真ん中には、

まぎれもなく宇宙人たちの仕掛けた、

「よく分からない物体」が前を横切っていたのである。

 

 

 

その日、

25年間追い続けた『ロマン』でさえも、

子を想う親の愛にはかなわないことを、

宇宙人たちは人類から学んだのであった。

そして、サプライズは慎重に行うべきことも、

しっかりと自分たちの星へ持って帰ったのである。