うちのじいさんがうらやましい話。
ぼくには祖父がふたりいまして。と言っても特殊な事情でもなんでもなくて。
母の父である祖父と、父の父である祖父。
となると、母の母である祖母と、父の母である祖母もいるわけです。
今日は、そのうちの父の父である祖父の話です。
80代になってから数年経っても、本当に元気なじいさん。
おじいちゃんと呼ぶべきなのでしょうが、ぼくは父方の祖父を、
じいさんと呼ぶのです。
なぜ、じいちゃんと呼ばないのか考えてみました。
たぶん、きっと、人生を本当に楽しんでいるから、キャラクターとして、
「じいさん」というものになっているのだと思います。
趣味はダンス。
社交ダンスが大好き。
ぼくが孫としてじいさんと関わって以来、
いまもずっと土日はダンス。同じ年ぐらいの奥様方とダンスを踊ってます。
バレンタインデーやクリスマスになると、いっぱいプレゼントを持って帰ってきて、
「モテるんや。どうや!」って、ばあちゃんに自慢するのです。
部屋にとじこもって、ダンスの自主練をしていたり、
リビングで吉本新喜劇を観て、でっかい声で笑ったり。
夜になったら、酒飲んでべろべろ。
お風呂に行くときは、
「ニューヨーク(入浴)へ行ってきます!」
なんてことを言うわけです。
あぁ、駄洒落に説明をつけないといけない恥ずかしさ、たまらない。
ちなみに、うちのじいさんは無線も趣味でして、
ばあちゃんのことを『エックスさん』と呼びます。
無線用語でエックスは、女性を示す言葉だそうで、
小さいころは混乱したのを覚えています。
ほかにもいろんなことを楽しんでいるうちのじいさん。
マジックも趣味のひとつ。
60代でマジックをはじめて、いろんなホールでお披露目をしていて、
母はアシスタントとして招集されたりしてました。
鳩を持っとく手伝いをさせられたビデオは家族では鉄板です。
なんとも言えない顔でステージにたつ母と、自信満々のじいさん。
旦那の父の趣味に付き合わされる嫁。
これが嫁ぐということみたいです。
と、家族を巻き込んで、ちょっと迷惑でだいぶおもしろい趣味であるマジック。
おもしろいって言っても、かなり馬鹿にした笑いかたをしていたのですが。
先日、家に泊まりに行った時に一本とられたことがありました。
仕事が終わって家へ行く。鍋があって、一緒にご飯を食べる。
相変わらず陽気なじいさん。
いつにもまして、陽気な気もする。
「明日はなぁ、エックスさんのデイサービスでマジックを披露するんや」
ばあちゃんの通っているデイサービスで、23日にクリスマスパーティがあるようで。
趣味がマジックだと、ばあちゃんが言ったんでしょう。
向こう側から、みなさんのために楽しいショーをお願いされたとのこと。
なにをしようか、どんな衣装を着ようか、ワクワクしてるわけです。
気になるのはやっぱりネタの内容。
どんなやつをやるのか聞いたらですね、
タンバリンをつかったマジックを披露するとのこと。
昔からやっているやつで、鳩を出したりすることができるそうな。
しかし、いまは鳩を家で飼っていない。どうするのか、何を出すのか尋ねてみた。
「そんなもんなぁ。わしはタンバリンから何でも出せるんや」
名言でした。
ちょっとかっこいいと思ってしまいました。
何でもは嘘だろうと思いながらも、出しそうな雰囲気を持っていました。
そして何よりも、素敵やん!って凄く感じたのです。
趣味でやっていたことで、たくさんの人のクリスマスを楽しいものにする。
それを自分も本当にワクワクしながらやる。
じいさん、かっこええやないか。
次の日も、興味がわいたので泊まりに行きました。
ばあちゃんに、タンバリンから何を出したか聞いたところ、
「わすれた」と一言。
認知症で、デイサービスに通う事になったうちのばあちゃんですが、
この時だけはそれが原因じゃないと僕は思うのです。
きっと、旦那のそういう姿をあんまり直視できない、
照れみたいなものがあったのじゃないかと。そんな受け答えだったのです。
大盛況だったと、嬉しそうに語りながら、
じいさんはニューヨーク(入浴)へ旅立ちました。
人を好きなことでしあわせにできる、しあわせ。
ぼくも、そんなものが欲しくなっちゃいました。
すこし、じいさんが羨ましかった話です。
大好きなマギー司郎さんの言葉にこんなものがあります。
早咲きの者もいれば、遅咲きの者もいる。
もしかしたら、ずっと咲かないものだっているだろう。
でも、それでもいいじゃない。
皆が綺麗に咲くわけじゃない。
中には咲かない花があっても、
それもまた花なんだから。
80代になっても、人間はあんなに楽しそうなら、
ゆっくり生きるのも悪くないなと思うわけでした。