得も損もない言葉たち。

日常をひとます、休まず。

あなたのクスッとをください。

聖夜は照れ隠し

 

 赤い服が好きな男がいた。

 赤い服が好きな男は、白いひげを生やしていた。

 そして、一頭のトナカイを飼っていた。

 彼の職業は、サンタクロース。

 クリスマスの日の夜に、世界中をかけまわり子供たちの枕元にプレゼントを置く。

 年に一度の仕事であるが、大変な仕事だ。

 もちろん、彼はそれだけで飯を食っているわけではない。

 平日は、普通のサラリーマンをしている。

 とは言っても、白いひげをたくわえても怒られないような職業だ。

 個性的な服装や、髪型が許される職業。

 彼のとおいとおいご先祖様が、クリスマスという日をつくり、

 世界中の人々へプレゼントを配るという宣言をした。

 おかげで、とにかく目立たずお堅い仕事が気質にあっている彼は、

 白いひげをたくわえても怒られないという基準で

 就職活動をしなければいけなかったといつも嘆いているのである。

 まぁ、ご先祖が初代サンタクロースという話は、

 面接官の興味を独り占めしたわけで。

 かなりの就職難だった時代をくぐりぬけ、一流のIT企業へ入社したようだ。

 

 

 

 

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 クリスマスという日がどういう意味を持っているかご存じだろうか。

 『イエス・キリストの誕生を祝うための日』

 一般的にはこの説が浸透しているだろう。

 しかし、事実はちょっと違ったようだ。

 今日は、それをお教えします。ただし、本当かどうかは分かりませんけど。

 

 

 

 彼のご先祖である初代サンタクロース(以下:サンタ)は、

 1人の女性へ特別な感情を抱いていた。

 名前が伝わっていないことをみると、結婚をしなかったのだろう。

 ひと夏の恋というより、ひと雪の恋といったとこかな。

 彼はその女性になんとか振り向いてもらいたくて、

 いろんなことをしていたそうだ。

 演劇にさそったり、手紙をかいたり、とにかく色んなことをね。

 12月25日が誕生日である彼女には、もちろんプレゼントを用意した。

 でも、ただ贈るだけじゃ彼女の心をひきつけられない。

 つまり、サプライズをしたのである。

 安心してほしいのは、彼が寝ている彼女の家に忍び込んで、

 こっそり枕元にプレゼントを置くとか、

 そういう犯罪的な行為をしたわけじゃないってこと。

 

 

 「今日は特別な日だから、君にプレゼントを用意したよ」

 

 

 サンタは、食事に誘った彼女に対して、こう切り出してプレゼントを渡した。

 しかし、12月25日が何の日だったか、彼女は全く分からない様子であった。

 つまり、こういうことである。

 どこでどうやってこうなったか、12月25日だったと思っていた誕生日は、

 なにがなんとやらで、12月26日であったわけで。

 

 こぼれたミルクはコップに戻らないように、

 出したプレゼントは懐にしまえないわけで。

 まさか、愛する人の誕生日を間違えてたなんて言えず。

 追い詰められた彼は、こう言ったのです。

 

 

 「今日はさぁ、イエス・キリストの誕生日だろ。

  そんな記念日にたくさんの人に愛を届けるのは素敵だろ」

 

 間違えを隠したと同時に、照れ隠しでもあった。

 誕生日を間違えたことと、彼女への気持ちを、

 イエス・キリストの誕生日という格好の理由でごまかしたのである。

 しかし、話は思わぬ方向に、プレゼントは思わぬ方向へ。

 いろいろあるけれど、いちばんの理由はこうだ。

 

 

 彼女の仕事が、シスターであったこと。

 

 

 私なんかよりも、もっとたくさんの子どもたちにプレゼントを贈ってほしい、と

 まじめな彼女はサンタに懇願したのである。

 たった一人へ贈るつもりだったプレゼントが、

 1つの言い訳から大きな運動を生み出した。

 サンタは彼女を愛していた。

 そして、彼女はたくさんの子どもたちを愛していた。

 クリスマスという日は、かくして生まれ、

 サンタクロースという仕事は、こうやって始まったのである。

 

 

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 今年も、クリスマスがやってくる。

 たくさんの少年少女と、プレゼントをリストアップしながら、

 第150代サンタクロースの男が頭をかいている。

 色々大変なことはあるだろうが、彼はこの1年に1度の仕事が好きみたいだ。

 世界中の子どもたちからの手紙を読んで、口元がゆるんでいる。

 

 

 「本当はこんな仕事したくない」

 彼は、よくこんな愚痴を友達に吐いている。

 そのくせ、クリスマスの日の夜は1人でソリにのって、

 一生懸命に世界中を周るのである。

 

 たぶん。きっとこの愚痴は、ご先祖からお得意の照れ隠しなんじゃないだろうか。